よしまる

バニシング・ポイントのよしまるのレビュー・感想・評価

バニシング・ポイント(1971年製作の映画)
4.6
しばらく70年代のマイフェバリット作品をレビューしていきます。

先日京都でみうらじゅん展を見て、映画における自分のマイブームも色々あったなあと思い出していたのだけれど、やはり70年代のアメリカン・ニューシネマが自分の映画生活の根っこにあることをあらためて認識。

世代としてはドンピシャではなく(当時小学生)、それでもテレビの洋画劇場で観た記憶、当時の世相や肌感覚が残っているのもあってノスタルジーを感じてしまうのかもしれないし、何よりいまに比べて受けた衝撃がイチイチ凄かった。

さて、多くの映画ファンから愛され続けている本作は、カーアクション映画の傑作にしてダークヒーロー、70年代のヒッピー文化、ベトナムの影、100分の映画にこんなに詰め込んだ作品も珍しい。

主役がダッジチャレンジャーというのがまず渋い。ダッジチャージャーはブリットやダーティメリー、ワイスピなど多くの映画に登場しているけれど、チャレンジャーは少なく、そもそも今も日本に正式輸入されていない。それだけでもう渋い(笑)
残念ながら昨年で生産が終了してしまった。まああんな5mもある車、ボクの住む京都では乗るとこないのだけれど。

アメ車がハイウェイをカッ飛ぶだけで絵になるというのに、このチャージャーはパトカーを蹴散らし、砂漠を横断し、行く先々で多くの人々と出会う。

怪しい宗教団体、ゲイの強盗カップル、盲目のDJ(直接は会ってない)、全裸でホンダのCL350スクランダーを駆る女の子、ヒッピー集団ではホンモノのデラニーandボニーが演奏していて(キーボードをブレッドのデビッドゲイツが弾いているというオマケ付き!)、ブロンドの美女はかつての恋人を思い出させる。

ただ1人、物語に重要な役割を果たすはずのシャーロットランプリングの登場シーンは米国版でカットされ、話がちょっと不明瞭になっているらしい。観たことないのでやっぱり円盤買うか〜。

バリー・ニューマン演ずる主役のコワルスキーは、ベトナムの帰還兵であり、プロのレーサー、さらに警察官と、凄い経歴の持ち主で、そのどれも何らかの確執があり、けれども中身は明示されない。どうやら最愛の恋人を失っている様子で、それもフワフワとしたイメージしか与えられない。

そしてはっきりと提示されるのはヤク中であること。

こんな70年代アメリカの闇の権化みたいな男が、自分の過去を、この澱んだ世界を振り切るかのように、中部のコロラド州デンバーから西海岸のサンフランシスコまで横断する。タイムリミットは15時間。
Googleマップで見てみると、有料道路の出来ている現在でも19時間かかると出た(笑)。

はっきり言って筋なんて有って無いも同然、先述した人々に出会いながら回想シーンによりコワルスキーというキャラクターが肉付けされてゆき、いつしかこの逃走劇を見守る聴衆と一緒になってミステリアスなオッサンに釘付けになり、心酔していく…。

ある種トリップムービーでもあり、ロードムービーとしても退屈せず、最後にはアッと声を出してしまうような結末にただ呆然とする。
オープニングには別の世界線が用意され、真のエンディングへと至るにあたり様々な解釈を可能にしているところも魅力的だ。

ラストシーン。警官や野次馬たち、盲目のDJ、彼らそれぞれの胸の内を明かしたような表情がたまらない。
80年代に「ベティデイビスの瞳」のカバー歌手としてブレイクするキムカーンズによるエンディングテーマが、カリフォルニアの朝の淡々としたこの場面に強烈な余韻を残す。
そう言えば、ハイウェイのバックに登る朝日、ライトが走る闇の中、乾いた砂漠、どれもが美しいショットの連発で、映像の面においてもやはりとんでもなく上質なカー映画なのだった。

昨今の映画に出てくるCGだらけのクルマに辟易している方にも全力でお奨めしたい。