この映画は「愛が生まれる瞬間」と「愛が死んでいく瞬間」を、二つのスクリーンで同時に流されているような話です。見る人間の胸にドス黒い重みを残して、「これが恋愛だ、これが結婚だ。どうだ、飲まずにやってられるか?」と問いかけてくる。
若い男女が恋に落ちて、やがて結婚する。これだけ聞くと、ありきたりなロマンチックコメディに思えるけど、『ブルーバレンタイン』はそんな甘っちょろい話じゃない。むしろ、この映画を見終わった後には、「愛なんて幻想だよな」と呟きながらウイスキーを注ぎたくなる。
過去と現在を交錯させながら、「愛の始まり」と「愛の終焉」を描く。過去のシーンでは、主人公たちがまるで夢を見るように恋に落ちる。音楽が流れ、笑顔が溢れ、世界が二人だけのものに見える瞬間だ。でも、それが現在になると一変。倦怠、怒り、無理解――まるで真冬の冷たい空気のように、二人の間に漂う。
これがまたリアルすぎる。恋愛の初期って、バカみたいに希望があって、「これならうまくいく」って信じてる。でも時間が経つと、ただ一緒にいるだけで息苦しくなる瞬間が訪れる。この映画は、その「息苦しさ」を直球でぶつけてくる。
二人とも「自分が持ってる毒」に気づかず、相手を愛しているつもりで、その毒を無意識に注ぎ込んでいるんだ。結婚生活ってのは、ある種の化学実験みたいなもので、組み合わせ次第で爆発もすれば、何も起こらないこともある。この映画の二人は、たまたま爆発してしまっただけだ。
この映画の演出は、「観客を居心地悪くさせる」ことに全力を注いでいる。喧嘩のシーンなんて特にそうで、二人が怒鳴り合う瞬間、まるで自分の目の前で友人夫婦が口論しているような感覚になる。視聴者として「ここにいたくないな」と思うけど、目をそらせない。
そして、過去の甘い思い出のシーンが映るたびに、「こんなに幸せそうだったのに、どうしてこうなった?」と胸が締め付けられる。そこに、人生の無常が浮かび上がる。幸せってやつは、永遠に続くものじゃない。
「それでも人間は、愚かにも幸せを追い求める」