カオリ

火垂るの墓のカオリのレビュー・感想・評価

火垂るの墓(1988年製作の映画)
4.2
原作者の野坂さん自身の戦争体験を題材とした
スタジオジブリ高畑勲監督作品

トラウマ映画といえばこれではないでしょうか。
私も類にもれず、子供のころに見たきり、「できればもう見たくない」と思っていましたが、少し前にジブリ祭をやったときに、こちらも再鑑賞。

昔は「悲しい」という感情が強すぎて冷静にみれていなかったのか、改めてみると、とにかく兄の正太が怖い…。
そもそも幽霊(地縛霊)として出てきてカメラ目線で語りかけてくるっていうのが怖すぎる。
幼い節子はともかく、正太は協調性も適応能力もなさすぎる。

高畑監督自身が、「反戦アニメとしてのメッセージは一切含ませていない」と何度も言っていたとおり、戦争の悲惨さという描写は確かにあまり感じないんですね。

作品のメインを占めるのは、この映画のキャッチコピーにもなっていた”14歳の兄と4歳の妹が2人だけで生きていこうとした”という部分。

もちろん、2人がこういう状況になってしまった原因は戦争なのだけれども、
”コミュニケーション障害のある少年が、社会との繋がりを断って、妹と2人だけで生きていこうとした結果、失敗していく姿”がメインになっている。

しかし、この映画の公開時である1988年に、コミュ障って言われたって、ピンとくる視聴者は少なかったのではないのかな?
高畑監督は時代を先取りしすぎたのですかね…。

テーマ性を置いておいても、
冒頭の、幽霊兄妹が電車の窓から見ている爆弾が投下されている様。
中盤の、兄妹が防空壕の中でホタルを放すシーン。(ここが遺影カット)
いずれも、光→死を意味していて。
ラストシーンは、公開当時の現代の神戸の街の夜景を見下ろす兄妹。
この神戸の街の光は何を意味するんだろうか…?

しっかり冷静に観ると、反戦映画でも、ただ悲しい映画でもなく、とはいえラストはやっぱり引っかかるというか、ちょっと怖い映画だなと思いました。

そして、数年前に公開された戦中アニメ映画「この世界の片隅に」と対比してみると、ことごとく真逆で、ここまで正反対だと逆に意識したのではないかと思えてくる。
主人公の年齢も性別も境遇も、感情表現も、コミュ力も、結末も、なにもかもが逆。

でも、最終的に、「人は助け合ってこそ生きていける」という、響くメッセージは同じ。

ただ悲しい感動映画なわけじゃない。こんなにも深みと余白のある作品だとは。
大人になって観たら、評価がグンと上がりました。
カオリ

カオリ