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マンマ・ミーア!のaのネタバレレビュー・内容・結末

マンマ・ミーア!(2008年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

・本作は、2001年にブロードウェイで公開されたミュージカル『マンマミーア!』を映画化したものである。日本では現在でも、劇団四季によるミュージカルの1つとして知られている。音楽には、世界的に有名なスウェーデン出身の音楽ユニットABBAの曲をベースにしており、実際に作曲家のベニー・アンダーソンが本作には参加している。

・ちなみに、本作監督であるフィリダ・ロイドは、オリジナルのブロードウェイでの劇監督も務めているので、実質的には本作はオリジナルの映画版である。こういう映画は本当に大好き!

・なんと本作は、2008年12月の時点において、イギリス国内における史上最高の興行収入を記録し、『タイタニック(1997)』の記録を破ったそう(翌年『アバター』(2009)に抜かれてはしまうが)。後述するが、絶対にピアース・ブロズナンとコリン・ファースという2大ジェントルマンをメタ的に配置したからだと思う。これは本当に特定の層にはブッ刺さるキャスティングなのだが、自分もその一員です。また、ミュージカル映画のプレミアにおいても、2760万ドルという破格の記録を樹立している(『ヘアスプレー(2007)以来』)。

・ピアース・ブロズナンは、契約した時点ではこのプロジェクトが何についてのものなのか全く知らなかったのだが、プロデューサーが彼に「この映画はギリシャで撮影されており、メリル・ストリープが主演をしている」と伝えたところ、彼は「彼女は演劇学校時代で妄想を繰り返していた、ゴージャスな金髪女性なんだよ」「ストリープに関わることならなんでも契約するよ」と述べ、快諾したそう。また、コリン・ファースも、今でも本作を「好きな映画」と述べている。

・さて、本作においてピアース・ブロズナンとコリン・ファースは明らかにメタ的なウケを狙ったキャスティングが行われているわけだが、ブロズナン氏は言わずもがな007シリーズの、5代目ジェームズ・ボンドを務めた人物なのだ。簡単に言うと、007シリーズとは1960年代から続く歴代最長の映画シリーズ。今では6代目まで、英国紳士でキザでカッコいい男のモチーフとして伝説的に知られているジェームズ・ボンド役が入れ替わってきて、もはや新たな役を誰が演じてくれるのかという点も含め、007シリーズはその時々の理想の男性像を反映し続けてきたわけのだが、この5代目のブロズナンというのが非常に素晴らしくで、彼は「めちゃくちゃカッコいいエロオヤジ」として、90年代の映画業界を席巻したのである!

・そんな007シリーズには、良し悪し含め様々な伝統(ルール)が存在している。酒と車にはこだわりがあり過ぎてうるさいとか、必ずベッドシーンを入れるとか、子供の姿はスクリーンに入れないとか(昔だと「秘書の女性のお尻を必ず叩く」「タバコを大量に吸う」とか、時代に許容されていたインモラルなものもあった)、本当にマッチョイズムそのものみたいなしきたりにがんじがらめにされているのだ。それを一番うまくこなしたのがブロズナン期のボンドであるということは、英国国民にとっては特に馴染み深い。

・そんな世界一hotな彼が、なんと本作では、冒頭から「以前の女性」の「娘」に呼び出されて島にやってきて(007において、一度関係を持った女性や子供の存在は、基本的に登場してこない)、ミュージカルソングをたくさん歌って、しまいには「親権は3分の1だ」とか言ったり、自分からプロポーズまでしてくれる(ボンドは結婚しない)ので、これはブロズナンのボンドを観てきた身からすると大爆笑をしてしまうのだった。絶対に狙った配役最高。でも、そこまで抜けきれてないホットさがあるのもまた素晴らしい。ブロズナンは本当に良い役者だなあ…

・一方のコリン・ファースというのも、これまた『シングルマン』(2005)(トム・フォード監督作品!)という、大変お硬いジェントルマン映画で見事劇的な男性像を描き切ったこととして主にヨーロッパでは話題になった(彼が主演の『シングルマン』(2012)は本作公開より後)ので、これまた狙ったキャスティングである。後述すると思うが、本作は『セックス・アンド・ザ・シティ』のような、女性版007モノにしようとしているような印象を随所から受けたし、それを見越した上での配役としてコリンにもこの役をさせているのだとしたら、また最高である。配役が満点です。

・結婚式の冒頭でinst.で流れる曲は”Knowing Me, Knowing You”なのだが、この曲の歌詞は"Knowing me, knowing you, there is nothing we can do. Knowing me, knowing you, we just have to face it this time we're through.”ということで、離婚について述べている。状況とはあまりに全然合っていなくて笑ってしまった。

・本作が撮影された、スコペロス島の「カスタニ」というビーチは非常に有名になり、毎年夏には多くの人が訪れるそう!この地中海模様が本当に最高。イタリアには絶対に行きたい(ちなみに母親は大昔イタリアの航空会社勤務だったので、子供の頃一緒に風呂で数える「あと10秒」のカウントはイタリア語で数えていました)。本当に行きたい。

・本作タイトルのフォントは、ニルヴァーナがジャケで使用したものと同じだそう。

・コリン・ファースは、本作のサントラのギターを全て担当している。地味にすごい。また彼は、バラエティ番組での「もし天国が存在したら何をしたい?」という質問に対して、「神に「『マンマ・ミーア』での歌唱は上手だったよ」と褒めてほしい!」と述べている。本当に、もしこの映画が男性監督による作品だったら、コリン・ファースやブロズナンに歌なんて絶対に歌わせられない。

・絶対にmemeになっているはずだ!と期待を込めて調べたら、最近のステラン・スカルスガルド(彼もまた二枚目として知られる)へのインタビューでは、やはり本国でもコリンやブロズナンの歌唱とダンスはネタになっているらしいが、「男性制作の映画だと必ずかわい子ちゃんがいるが、女性制作の本作では僕らがかわい子ちゃんだったんだ。僕らの仕事は、可愛くして、バカっぽくいることだったんだよ」と語っている。本当にこの3役によりによって親権を分けるとか、最高すぎる。

・「Super Trouper」の冒頭は、3人の女優がアカペラで生歌唱しているらしい。このパーティーシーンが本当に好きだったので嬉しいし、ここら辺の世界観(?)はそのまま、昨年の個人的ベスト級映画『バービー』(2023)の冒頭にもインスパイアされていて、本作がモデルになっているのか!と感動した(厳密はモデルとまではいかないが、十分参考にされているはず)。本作が好きなら、是非『バービー』もご覧ください。

・この映画の全体的なデザインは、ストロフェとアンチストロフェのパターン、庶民を表すコーラス、マスクや男根の小道具などの登場人物の気分に合わせた衣装など、ギリシャ喜劇(アリストファネス)として物語が構成されており、これらは典型的なギリシャ・コメディのパターンに分類されるそう。本作のデザインが全く観たことのないモノだと思っていたら、ギリシャ独特の文法があるとは知らなかった。

・ちなみに本作は、自分の父親も大好きです(父親はミュージカル大好き)。

・総評&感想。ABBAの時代観がバキバキにひかるサウンドトラックの数々に、メリル・ストリープというウルトラ大女優(アカデミー賞のノミネート回数最多を更新したらしい)を当てる、これだけでも役者力でとりあえず見る必要のある映画なのですが、何せ全てにおいてキャスティングとデザインの采配に恐ろしいくらい気を遣われているのは、女性監督の真骨頂だと思います(この表現が正しいのかわからないですが)。何より男性キャスティング、このバービー人形の隣にいるケン人形そのもののような配役はブッ刺さるものしかないですし、彼らは続編にて続投しているらしく、これには相当期待が大きいです。というのも、メリル・ストリープがいて、監督が女性という条件がなければ、彼らは絶対に出てくれないくらいイカつい俳優たちなのですから。脚本は結婚式にまつわる母娘の物語を除けば都合の良くコメディチックな展開が続くのですが、それをこの男性陣が快諾していることこと、あまりに意味があります。何より歌。007のピアース・ブロズナンって、歌とか歌ってる人を冷やかして、延々と酒と時計の話をしているタイプの超キザ野郎ですよ。それをこんな、女に遣わせるタイプの男にしていて感動。でもやっぱり中年とはとても思えないほどとてつもないかっこよさもあって、ああ、本当に良かったなあ、ブロズナン。存在が映画映えするタイプの人間ですね。また007を見返したくなる1作でした。コリン・ファースは演技しているのか?というくらいそのまま自分のキャラがあらゆる映画に浸透しているのですが、正直本作でもそれは同じで、やはり彼はあまりにカッコ良過ぎて、ブロズナンほど崩しきれていないので、減点です。こういう楽しみ方を久々にさせてくれる、古き良き(?)映画でした。ありがとうございました。
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