arch

アマデウス ディレクターズ・カットのarchのレビュー・感想・評価

4.5
天才モーツァルトと凡人の頂点サリエリの数奇な運命を描く。
かつて音楽と神への信仰が強く結びついていた時代。サリエリにとって神からの祝福であり、声であり、自らの進む道であり、神が自らに与えてくれた他の誰のものでもない才能、それが彼にとっての音楽であった。

しかし、彼の前にモーツァルトが現れる。彼は自分よりも神に愛され、音楽に愛された男だった。
その存在はサリエリにとって自らの信仰への神の反逆でしかなかった。モーツァルトへ憎しみは深まりながらも音楽への純粋な気持ちがモーツァルトへの羨望を強める。
嫉妬と羨望、その2つに引き裂かれそうになるサリエリ。モーツァルトの死を望みながらも彼はそのことを一生後悔する。

モーツァルトの壮絶な人生をサリエリ視点で描く。父の亡霊に苦しめられるモーツァルトの姿は彼が脆い人間であることをすごく感じさせられた。そのことを知っているのはサリエリだけだ。
モーツァルトを理解しているからこそ、そういった作戦を取れたし、その曲をもってモーツァルトはもしかしたら救われていたのかもしれない。

他の凡人達に分からないだろうが自分という「凡人の頂点」だけが彼の音楽を理解できる。憎みつつも彼の唯一の理解者であるという二人の関係が見事なドラマを生んでいた。

特にラスト二人の作曲シーン。ここが凄まじい。モーツァルトの真剣な作曲シーンはここでしか描かれていない。彼の脳内を流れる曲が音符になる瞬間。凡人代表のサリエリを通してその偉業を堪能する。サリエリもこの瞬間、これまでのわだかまりは捨て去り、1人の音楽家としてそこにいる。その交流の中、流れる完成した楽曲。それはモーツァルトの頭の中を反映した劇伴のようであり、未来に引き継がれていった音楽が過去と未来を繋いだ瞬間でもある。
そしてそれは人と神の対話の再現でもある。
今作が描いたのは人、神、音楽その3つの糸が織り成す時代の栄衰だ。
arch

arch