Lz

御法度のLzのレビュー・感想・評価

御法度(1999年製作の映画)
3.6
戦場のメリークリスマスより先に観て、この監督の作品なら間違いなく没頭出来ると思わせられた映画。なので初鑑賞はかなり前。

松田龍平の妖艶で蠱惑的な美しさは内から出てるもので、惣三郎の役を担えるのはあの時の彼しかいないと思わせる存在感が常にあった。演技の拙さはあれど、あの若さで衆道という難しい役どころを演じ切っているのが素晴らしい。あの幼さや拙さが余計に、ミステリアスで妖しい惣三郎を作り出していたのだと思う。
派手さのない演技と、人形のように変化しない表情と、静かな瞬き。子どもと大人の狭間に生きる青年は、同じ人間に見えない瞬間がある。

自分の価値を理解しての行動か、天然物の人狂わせなのか。どちらともなのだとしたら、何とも罪深い。あの“願い”とやらが宿った前髪から醸し出される婀娜っぽいオーラは、周囲の男を惑乱させるには十分過ぎた。

あの時代の戒律や、個人の信念、タブー、置かれた環境によって発生する特殊な欲の描かれ方があった。閉鎖的で内輪的な場を乱すことの罪が描き出されていて、それらが純愛なのか嗜みなのか、そこに注目することで時代背景や個人の信念が見て取れたりする。本作はそれが顕著だったと思う。
男だけの厳しい閉鎖空間で、上下関係、主従関係を何より重んじ、禁欲的で、血生臭い。男たちはその中で自分の立場を利用したり、弁えたり、時には周りに踊らされ、嫉妬し、どんどんと泥沼にはまっていく…。その欲望は愚かなように見えるけれど、彼らにとっては生きることそのものでもあった。

キャストそれぞれの配役が適役で、拙さは拭えないけれど、完璧すぎないのが逆に独特の世界を作り上げていた気もする。北野武の土方と、崔洋一の近藤、精神を律してはいるが、あの乱れた世界に君臨しているだけあって、同じ穴の狢である雰囲気が醸し出されているのが、いい塩梅で感じ取れた。
武田信治の沖田も、松田龍平の惣三郎とはまた違った、端正であどけなく、でも凛とした美しさがある。あれこそ人たらしとも言えそうな青年だけれど、無責任に人を惑わす真似はしない。きっと己の他の価値を知っているからであり、惣三郎は、沖田のそんなとこに引かれたのだろうと思う。

本作について調べていたら、
「衆道において『斬り合うこと』は性的な意味合いを持つものとされてる説がある。想いを募らせ合った男同士、お互いを斬り合うことで自害に走る、ということもあったらしい。」
と言うようなことを綴ってる方がいた。それによって、最後の展開が持つ意味を再確認できた。
そうなると、やっぱり惣三郎は、自分の価値を理解し、利用できる、根から罪深い男であるらしい。しかしそんな彼も、結局はあの渦の中心から抜け出せなかった男の一人だった。美男過ぎたが故に、周りの男どもに己の価値の深さを嫌でも植え付けられ、未熟な身体はまんまと侵食された。ミイラ取りがミイラになったけれど、実際彼も周りの男に食い物にされてきた被害者であるとも捉えられる。あの新撰組の中では、誰もがそれに該当し得るのだろうと思う。

衆道と言えど、決まった形があるわけではない。男同士の世界の中で、一体何が御法度に値するか、己の自覚はあるか、知らぬうちにタブーを犯してはいないか…。それさえ見定めるのが難しく、錯綜していく様が、大人のお伽話を見ているようだった。
Lz

Lz