生まれてすぐに捨てられたキトゥンは、美しい中性的な青年へと成長する。ある日、自分が孤児だと知り、本当の母を探すためロンドンへ‥。
「探している母のことを“幻の母”と呼んでいるの。私の人生は物語だ、と思えるようにー。」
そう思わないとやってられないほど、子供の頃から嫌なことがたくさんあった。
なりふり構わず夢中になったり、心底落ち込んだりしたら、自分がダメになってしまうとわかっているから、キトゥンは本気になったりしない。自分の人生を真剣に生きられるほど強くないと知っている。キトゥンは、生涯、宇宙的孤独なのだ。
他の誰かの人生を生きているとでも言うような浮遊感のあるキトゥン。女でも男でもない人を惹きつける美しさを持ったキトゥン。戻れなくなるところまでは決して行かないキトゥン。かと言って好意がありそうな人には上手に甘えるキトゥン。
だけど最後には、長い物語を読み終えて本を閉じた後のような多幸感をくれる。
そのどれもが美しい。キリアン・マーフィーの傑作。