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不毛地帯のotomisanのレビュー・感想・評価

不毛地帯(1976年製作の映画)
3.7
 米国の51番目の州というと、日本人なら当然自国を思い浮かべるだろうが、そうと聞けば英国人もドイツ人も日本の後塵を拝し52番目、53番目に落ちることを恥とするだろう。いつからそんな感慨を抱き始めたのか、占領解除から10年の日本ではどうだ?

 総理大臣直属、国防会議の次期戦闘機選定がシビリアン・コントロールのもと、賄賂で決まるという。こんな国は中南米レベルの統治ということだ、テリトリーとなる資格もない。
 USの州になぞらえるとはとんでもない?と、これが防衛庁筋の見解だが、商戦過熱の挙句、賄賂合戦の末、米政界にまで実弾攻勢を掛けたラッキードがついにFX選定と各種貿易摩擦解消に向けた包括的提案を大統領親書として出させるに至り交戦停止となる。いつの間に中南米レベルがワシントンに北上を遂げたのか?

 ホワイトハウスもラッキードもこうした陰で、海の向こうで起きる商戦の裏の熾烈さを知りもしないだろう。図らずもそれへの参戦を余儀なくされた壱岐正氏は、ラッキード案への好感に基づき知略を尽くし人脈総動員で事に当たるが、無理を重ねた末、贈収賄、機密漏洩の尻尾を掴まれ警察の証言聴取に追い込まれる。
 この窮地を脱するのは結局ホワイトハウスの差し金に応じた政治介入であって、その意味で商戦に勝って、個別戦闘で負けたことになる。この敗北の代償は壱岐が仕組んだ機密漏洩で窮地に立った旧友、川又空将補の死である。それをけじめと認め立件に至らず沈静化するのだろうが壱岐本人を始め、悪事に加担し多くを失った人々、さらにそれに連なる家族、知己はどうなるだろう。

 国益と信じて深入りした戦争も秘密の終戦工作の頓挫もソ連の意図を読めもせずむざむざシベリア抑留を許した事も壱岐にとっては痛恨事であったろう。ダンケルクでの撤退劇を振り返ってみればいい、日本人と彼らは何が違うのだろう。それがこうして最新の商戦においても「戦争犯罪者」に「戦死者」まで出してしまう。
 勤務先に辞表を出してどうする?また浪人生活で迷惑をかけた人々のその後を支援するのだろうか。その活動も助けましょうとライバル商社は高給の口をオファーするだろう。痛恨事続きで自失した氏が新たな商戦で復活し本当の勝利、それはどんなことだろうか想像もつかないが、それをめざす物語は遂に描かれない。
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