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キャバレーのtakのレビュー・感想・評価

キャバレー(1972年製作の映画)
4.3
高校時代にFMの映画音楽番組でライザ・ミネリのパワフルな歌声を聴いて、数々の名作映画を紹介する書籍でボブ・フォッシー監督の凄さを教えられ、いつか観なきゃ!と思っていた「キャバレー」。2022年の「午前10時の映画祭」で上映すると聞いて行く気満々だったのにスケジュールの都合で行けなくて、生息地のレンタル店には置いてない、配信もない。宅配レンタルでやっとありつけた🥲。

1930年代のベルリンが舞台。スターを目指して夜な夜なキャバレーで歌うサリーの下宿に、イギリスから学生で作家のブライアンがやって来た。二人は意気投合し誰よりも仲良くなる。女性とうまくいかなかった過去を持つブライアンだったが、サリーとは恋人として結ばれた。二人は裕福なドイツ人男爵と知り合うが、それが2人間に亀裂が入るきっかけとなっていく。

この映画最大の魅力はキットカットクラブのステージで繰り広げられるミュージカル場面。気味の悪いメイクをしたジョエル・グレイが、踊り子たちを紹介し、自らも歌い踊る。それは下品でいかがわしいものから、芝居がかったもの、ナチスが台頭する世相を扱ったものまで幅広い。小編成バンドの軽妙な演奏と、サリーの力強いボーカルに惹きつけられる。

そうした音楽と並行して、ナチスがだんだん世間で幅を利かせていく様子が無言で描かれる。映画の前半で店を追い出された党員が、今度は仲間を引き連れて店のスタッフをボコボコにする。ユダヤ人であるナタリアに迫る危険。そして映画の最後には、クラブの壁に映る像に鉤十字の腕章をした者が増えているのが見てとれる。その不気味な雰囲気が、この物語の先にある未来が暗く厳しいものであることを、声高に示すことなしに感じさせる。

やがて、サリーとブライアンの恋物語もすれ違いの結末を迎える。再びステージに立つサリーが歌うのはタイトルソングCabaret。

人生はキャバレー、
キャバレーにおいでよ♪

それは、サリーがこれからも歌い続ける決意の歌でもあり、一方でこれから先の暗い時代を憂いて刹那な喜びでもみんなで楽しもうという歌でもある。高校時代に初めてラジオで聴いた時は、単にパワフルで楽しいミュージカルナンバー。こうして物語を経ることで、歌の裏側にある寂しさが胸にしみて、涙があふれそうになる。オリジナルの舞台の良さがあるのはもちろんだが、時代背景や悲しい人間ドラマを巧みな編集で織り上げた傑作。何度も観たい楽しいミュージカルとは違うけれど、忘れがたい映画であるのは間違いない。
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