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わが青春に悔なしのkojikojiのレビュー・感想・評価

わが青春に悔なし(1946年製作の映画)
3.8
1945年 監督:黒澤明 2022.09.04視聴-407 評価3.8
● 原節子(八木原幸枝)
●藤田進(野毛)
● 大河内伝二郎(八木原教授)

 第5作

 戦後最初の黒澤監督作品。この作品はいい!
 黒澤監督は『題名は「悔いなし」だが、私は映画に悔いがある。』と言っている。それは当時、組合運動が活発化し東宝争議が起き、組合の力が相当強くなっていて、組合の審査会から後半を書き換えるよう要請され書き換えたそうで、それが相当悔しかったようだ。最後20分がその手が入っている箇所らしいが、私は逆にこの20分間が最高に面白く、すごいと思った。
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 1933年(昭和8年)、京大事件が起き、自由主義者の八木原教授は罷免されてしまう。やがて大学を追われた八木原は弁護士に、教授の教え子糸川は検事になり、野毛は左翼運動に身を投じていた。教子の二人とも、教授の娘幸枝に好意を寄せていた。
 野毛に強く惹かれていた幸枝は上京して自活の道を選び、野毛の後を追った。1941年(昭和16年)、幸枝は野毛と結婚する。だが、野毛は戦争妨害を指揮したとして逮捕され、獄死してしまう。

 原節子が小津作品とは、全く違って我が強く、わがままで、自分の信じる道を突き進む女性像を演じている。私はこちらの原節子に魅力を感じた。
 特に最後の20分の汚れ役は、彼女の新しい時代への決意みたいなものを強く感じ惹かれる。どんな汚れ役をやっても彼女が持つ天性の汚れない知性と強靭な意思みたいなものを感じ感動する。やはり、トップ女優になる人は違うと初めて思った。

 これまでも黒澤監督の4つの作品は黒澤監督の原点を観るという感覚で観ざるを得ない部分が多々あったが、この作品は明らかにこれまでの作品とは違う。作品として面白く、評価3.8の価値がある。

 映画の最初、京都吉田山にピクニックに行くシーンがあるが、この晴れやかな映像は青春の象徴として取られているのだろうと思っていた。ところが、黒澤監督はインターピューて、こんなに晴れやかな気分で撮ったことはなかったと語っている。何を撮るにも検閲が気になっていたのだろう。そんな気分も晴れて、新しい時代になったという、黒澤監督の気持ちが映像に出ていて素晴らしいシーンになっているのだろう。

 映画の始まりに「滝川事件」に題材にとったと出てくるが、映画を観るのにそんなことは関係ない。強いて言えば「この映画は事実をもとに作っている」でいい。

 「滝川事件」は歴史で勉強すればいいことだ。

 この映画でも八木原教授役大河内伝二郎が存在感を示している。こんな役者だったんだと改めて見直す。
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