ユーライ

火まつりのユーライのレビュー・感想・評価

火まつり(1985年製作の映画)
5.0
原作ではなく脚本として中上健次がクレジットされているので、先行の映画化と比べても独自色が強く文脈を理解している必要がある。柳町光男作品のカメラは安易な寄りやイメージショットではなく、引きの視点で俗世間から見向きされない人々の生活を動物実験のような冷徹さでもって、しかし微妙な揺れる内面を映し取る。明確な動機らしいものが存在しないのは『十九歳の地図』と同じく、ただその土地の空気や人間の臭気が凶行に走らせる。正直その気分がとても良く分かる。80年代の繁栄を謳歌する日本で置き去りにされた田舎の集落。豊かな自然に囲まれ動物が駆けずり回り、人間の男はあり余る欲望を持て余し、女はしたたかに生きている。排他的な人間関係は相互監視を生み、余所者を嫌う。流れる歌謡曲の華やぎとは致命的に似合わない泥臭い風景。クソ田舎を扱った映画でこれほど解像度が高いものはそんなにない。『丑三つの村』の古尾谷雅人や『楽園』の佐藤浩市と同じ絶望がここにはある。最後に彼は村に怨念を残して死んでいくが、血が海に流れて魚は息絶え赤く染まる。文字通り神になる。セカイ系じゃん。SFやファンタジーではなく卑近な題材でも圧倒的な「世界観」を構築可能なことが分かる傑作。
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