YasujiOshiba

暗殺指令のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

暗殺指令(1960年製作の映画)
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シチリア祭り(30)

積ん読のブルーレイで鑑賞。

これはビックリのいい映画でした。撮影監督のジャンニ・ディ・ヴェナンツォ(1920-1966)はフェリーニの『8½』(1964)で覚えた人だけど、フランチェスコ・ロージの『シシリーの黒い霧』(1962)やジョセフ・ロージーの『エヴァ』(1962)、アントニオーニの『太陽はひとりぼっち』(1962)や『夜』(1961)などと、そりゃもう名監督のもとで、みごとな白黒の映像を撮ったお方。だから、モノクロのコントラストはもちろん、どうしてこんなにかっこいのっていうカメラのポジションだけで昇天しちゃいそうになる。

しかも、トラーパニの街並みがよい。そしてマクリー伯爵が営む塩田の風景がよい。そしてパレルモへの逃避行の記者からの風景、パレルモの街並み、市場の様子など、実際にロケをしたみたいだけど、ワンカットごとに、ハッとさせられる。こりゃ映画だわ。

原題は「南の風 Vento del sud 」。トラーパニの塩田は、地中海からの海水を風車で引き込むのだけれど、そのアフリカからの風が「南の風」ということ。日本では1961年に公開されたみたいだけど、ほとんど忘れられた作品なんじゃないだろうか。よく発掘してきたね。イタリアもご同様でわすられた作品だったみたい。たしかにレナート・サルヴァトーレがパッとしないからな。彼はどうして当時人気だったのだろうね。それでもクラウディア・カルディナーレがいる。チュニジア生まれだけど、両親はシチリアの人だったはず。その意味でもみごとに「南の風」の依代になってくれた。彼女がいるだけで映画は十分に映画になる。

特筆すべきはカルディナーレの姉を演じたロッセッラ・フォークと、父親の伯爵役のアンイバーレ・ニンキ。ニンキはフェリーニの『甘い生活』でマルチェッロの父親役を演じ、フォークは『8½』でグイードの妻の友人を演じてんだよね。

そのロッセッラ・フォークだけど、バリバリのピランデッロ女優さんなんだね。舞台の役者さんというのもあるのだけど、目力がすごすぎる。カルディナーレなんて吹き飛ばしてしまいそうな眼力が、かえってカルディナーレの可憐さを引き立てる。見応え十分でござんした。

それから注目は1960年の初めという時代。まだまだマフィア映画が、それもマフィアの恐ろしさを描いた映画が無かった時代、これは明らかにその先駆けなんだよね。レオナルド・シャーシャも、その「映画のなかのシチリア」でこの作品にはふれずに、ラットゥアーダの『Mafioso』について記している。どちらも主人公がマフィアの刺客となるわけだけど、実はこちらのほうが怖いのは怖い。

ラットゥアーダのほうは、アルベルト・ソルディが刺客にさせられてしまうのが笑わせるのだけど、ブラックといえばブラックで、ラストは秀逸(シャーシャはお気に召さなかったようだけど... )。どこか突き抜けたところがあるラットゥアーダよりも、エンツォ・プロヴェンツァーレのこの(どうやら唯一の)監督作品のほうが、マフィアの恐ろしさがグッとくる。なんといえばいいのかな、ちょうど『ローズマリーの赤ちゃん』のミア・ファーローの気持ちといえばいいのだろうか。

しかも映像はこっちに軍配があがる。ブルーレイで見るとそのあたりがはっきりよくわかる。このシチリアのイメージの延長線上にロージの『シシリーの黒い霧』とかが位置するわけなんだな。

エンツォ・プロヴェンツァーレは、シナリオから監督へと移ってくるのだけど、その後はプロデュースで才能を発揮する。先に触れた『シシリーの黒い霧』に、ヴィスコンティの『山猫』、それからベルトルッチの『ラスト・タンゴ・イン・パリ』も彼のプロデュースなんだね。シチリアにこだわりがあるのは、メッシーナの出身というのもあるのだろうか。

P.S.
なんとこの映画、編集技師として名高いルッジェーロ・マストロヤンニ(1929 –1996)が初めての編集作品だという。言わずと知れたマストロヤンニの弟だけど、カッティングのリズムの良さも、ジャンニ・ディ・ヴェナンツォを引き立てているというわけだ。

P.S.2
サン・ヴィート・ロ・カーポの海岸のシーンがよい。アントーニオ(サルヴァトーリ)がマフィアにおどされる海岸だ。その海岸の向こう側に見える印象的な岩山はモンテ・モナコ。

そしてトラーパニの塩田。マルサーラからトラーパニへのシチリアの西端の海岸部には塩田が点在していることで知られるけれど、その昔ながらの風景をこの映画では見ることができるというわけだ。物語の設定では、塩田は伯爵の所有する島にあるはずなのだけど、どの島かは不明だ。

塩田にある風車が印象的。これは海水を地中海の風を利用して塩田に引き込むためのもの。グラツィア(カルディナーレ)とアントーニオ(サルヴァトーリ)が出会うのがこの場所だ。

PS.3
この映画のラストは悲惨だけど、グラツィアの最期には、母親の自殺と、それから姉(ロッセッラ・フォーク)の嫉妬が遠因となっている。その姉は、自分が結婚すべきだと思っていた男を、妹に取られたと思い込んで嫉妬しているのだけれど、最後の呪いの言葉が恐ろしい。それが「Maledetto il girono che ti hanno messa al mondo!」というもの。構文的に解説すると「maledetto il girono che [in cui] ... 」は、「〜の日よ呪われろ」ということで、「che [in cui]... 」に続く文章に、呪いの対象となる文を入れるわけだ。ここでそれは「ti hanno messa al mondo あなたがこの世に送り出された」日を呪っている。つまり、「あんたなんか生まれてこなければよかった/あなたは存在する価値がない」という、相手の人生を頭ごなしに否定する呪い。ああ、恐ろし...
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