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ヴェラクルスのodyssのレビュー・感想・評価

ヴェラクルス(1954年製作の映画)
4.0
【見事な西部劇、しかし歴史的に見ると・・・】

二十数年ぶりにBSで鑑賞。前回は映画館での鑑賞でしたが、内容はすっかり忘れていました。

私が説明するまでもなく、典型的な西部劇です。クーパーとランカスターの二大スターの競演がまず見もの。クーパーがどうあがいてもワルには見えない限界があるのに対し、歯をむき出しにして笑うランカスターはいかにもならず者で、折りあらば一攫千金を狙う山師ぶりが板についています。

途中の展開も色々あって、退屈しません。いちおう女優も2人登場して活躍するのですが、見終えてみると影が薄い。それだけクーパーとランカスターの存在感が大きいということでしょう。あくまで男のドラマであり、つまり西部劇の王道を行く作品なのです。また同時に歴史スペクタクル的な部分もあって、規模も壮大です。

ところで、この映画は1866年のメキシコを舞台としているのですが、この時代のメキシコはどういう状態にあったのでしょうか。映画からも多少はうかがえるのですが、メキシコ史に無知な私には「?」な部分が多かったので、ちょっと調べてみました。

1861年から67年まではフランスを中心とするヨーロッパがメキシコの政治に干渉して兵を出していた、いわゆる「メキシコ出兵」の時期にあたります。この映画ではメキシコの皇帝軍と革命軍が対立していますが、ここでの皇帝とは、1863年にフランスのナポレオン3世が傀儡政権を作るためにオーストリー皇帝の弟を連れてきて即位させたものでした。ヨーロッパのメキシコに対する債権問題がこじれており、親ヨーロッパ的な政権を樹立させようという狙いがあったようです。

しかし1866年、ナポレオン3世はアメリカの要請や自らの隣国プロイセンの脅威が高まっていることなどを理由として撤兵を決定。メキシコ皇帝はフランスの撤兵申し入れを拒否したものの、翌67年にフランスは自主的に撤兵を行います。

この映画でフランス貴族が金貨を持ってメキシコからヨーロッパへ脱出しようとしているのは、以上のようにフランス軍がメキシコから撤退し、フランスがメキシコへの権益からも手を引こうとしていることと結びついています。それに対して、金貨はメキシコ民衆のものだと主張する革命軍シンパは、メキシコの富がヨーロッパの貴族に奪われるのを防ごうとしているわけです。

結局クーパーはそうした革命軍シンパに協力することになる。言うならば正義の味方です。しかし、非アメリカ人であるわれわれの視点からすると、このあたりはアメリカ映画の自己正当化と言えなくもない。

なぜなら、アメリカは米墨戦争(1846-48年)などを通じてメキシコ侵略を行ってきていたのであり、南北戦争(1861-65年)で他国に手を出す余裕がなくなってメキシコから撤退したに過ぎなかったからです。アメリカがフランスのメキシコ干渉に抗議したのは、ですから必ずしも隣国メキシコの独立を尊重したからではなく、アメリカ大陸へのヨーロッパの干渉を防ごうとしただけの話だった。

有名なモンロー主義は1823年に当時のアメリカ大統領ジェームズ・モンローによって唱えられましたが、これはヨーロッパ大陸と南北アメリカ大陸の相互不干渉を訴えたものであり、アメリカ大陸内でアメリカ合衆国が他国に口出しをするのは構わない、というか、アメリカ大陸のリーダーたる合衆国がそうするのは当たり前、というのがアメリカの認識だったのです。

ですから、あくまでヨーロッパ勢力を相手に旧南軍軍人がメキシコの独立を助けるという筋書きのこの西部劇は、アメリカ合衆国自体のメキシコ侵略を覆い隠す政治的な設定だった、とも言えるのではないでしょうか。歴史劇としてのこの映画はその意味で、古き良きアメリカを米国人が信じていた1950年代ならではのものだったのかも知れません。
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