怒りは君を幸せにするのか?
黒人が悪だとか、白人が悪だとか、そういうことではなく差別というものの構造の一面を見事に描ききった傑作。『シンドラーのリスト』が教養映画としてよく挙げられるが、こちらも一度は視聴しておくべき作品であるように思われる。
本作で差別する側とされる存在の言動は、ひとつひとつがわかりやすく自己矛盾している。行動の直後に主義信条を表明するのだが、その思想そのものが差別主義者を批判しているのは不謹慎ではあるがおもしろい。
彼等は全体を洞察しろと繰り返し非差別的な人間を洗脳するのだが、実際には彼等こそが自身の主義に阿るグループとのみ馴れ合い、自己判断ができていない。そして自身の主張に沿わない人間は、近年の例で言うのならば"名誉男性"のような客観的には失笑モノの蔑称を与え、排斥する。
こうはなるまいという例を挙げながらも、無意識的にそういうことをしてはいないだろうかと内省の余地を覚えた。
作品としての完成度も流石というべきで、教訓と娯楽どちらの側面からも何度でも視聴したいと思える作品であった。ラストシーンは賛否あるだろうが個人的な趣味は陰鬱で最高。