ヤンデル

ドゥ・ザ・ライト・シングのヤンデルのレビュー・感想・評価

ドゥ・ザ・ライト・シング(1989年製作の映画)
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・本作はのちのロス暴動や「Black Lives Matter」運動を予見したような内容ということで再評価された。(「Black Lives Matter」は「黒人の命は大事である」というテーゼ、命題(自明のことを投げかけることで、それに疑問を呈するもの)。

・「Do The Right Thing」はそれぞれのキャラクターは正しいことを言いつつ、悪いことをしていることを示唆している。各キャラクターの良い面を表すシーンもあり、極端に凶悪な人物がいない設定になっている。例えば、白人警官が黒人警官を殺してしまう場面でさえ、スマイリーというキャラクターに「警官の中に黒人もいる!」と叫ばせる。

・変更前のタイトルは「HEAT WAVE」。暑さの中で苛立ちが高まり、最後に事件が起こるというテーマ。

・登場人物はアメリカ全体の人種のメタファーにもなっているが、DJは神を表現している。「目覚めよ」などと言っているのはそのため。「熱が高まっている」「キーワードはCHILLだ(=頭を冷やせ)」などともいう。

・黒人の老人はジャズやブルースで育っているので、ラジカセのヒップホップは「うるさい」と言っている。これも黒人の間でも老人と若者が対立があるということのメタファー。

・NYの家賃が高騰しているため、ブルックリンの安い物件を白人が買い始めている。貧しい人が住めなくなるつつあることを示唆している(これものちに深刻な問題となる)。

・パラマウント製作時にはラストシーンはサルとムーキーが和解して抱き合うプロットだったが、スパイク・リー監督(ムーキー役)はそれを拒否し、ユニバーサルで現行のラストに製作し直した。
 ラストシーンで和解してしまうと、問題提起が弱くなってしまう。監督が「ドライビング・ミス・デイジー」や「グリーン・ブック」を批判しているのはそのため。

・事件のシーンは最初の暴力はバットでラジカセを壊すことだが、そこからの連鎖の積み重ねで暴動が起きている。火事のあとのシーンで、燃えたバットとラジカセが映される。

・サル(ダニー・アイエロ)がスマイリーにお金を渡すシーンはアドリブだったため、スマイリーが店に火をつけることとストーリーの整合性がとれなくなっている。

・サルは黒人たちに食べ物を提供してきた(施しをしている)感覚になっている。自分がやってきたことに誇りを持っているが、客としてお金を払ってもらっているにも関わらず黒人に対するリスペクトがないキャラクターとなっている。

・ムーキーはゴミ缶を店に投げつけるが、そうしなければサル達は黒人たちにリンチに合っていた可能性がある。最後のシーンでサルがあまりムーキーを恨んでいないのはそのため。また、ムーキーはゴミ缶を投げつける前にゴミを出しているが、これは店にゴミを投げたくなかったため。店に保険がかかっていることも認識した上で冷静に判断してやっている。

・実際の事件として、ブルックリンでピザ屋で白人に黒人が絡まれて車に轢かれた事件、周囲に悪態をついた老婆がショットガンで警官に殺される、といった事件(警官は裁かれなかった)が元になっている。そのため、ピザ屋や、車に轢かれそうになった少年、イライラしたおばあさんなどが登場する。

・群像劇をラジオDJのトークでつなぐ構成はジョージ・ルーカス「アメリカン・グラフィティ」の影響。

・カメラの前にヒーターを置くことで空気を歪ませて暑さを撮影で表現している(かげろうを表現)。

・メイヤー(市長)役のオシー・ディヴィスは往年の名監督であり、スパイク・リーの師匠にあたる。マザー・シスター役のルビー・ディーとは実生活では夫婦。

・サミュエル・L・ジャクソンはビル・ナンとは大学の先輩・後輩にあたる。

・キング牧師は暴力は独り言であり、対話でしか差別を解決できないと説いている。それは綺麗ごとではなく、暴力が有効でないという戦略として説くことで人々を説得し続けた。
 マルコムXは、それでも悪い人間はいるので、自衛のための暴力は必要であり、それは暴力ではなく知性だと説いている(これは過激な考え方と捉えられている)。

・日本未公開の同監督の映画「Red Hook Summer」では、歳をとったムーキーはピザを配り、ピザ屋の名前も「サルの店」となっている。スパイク・リーは「Do The Right Thing」の後日譚として、2人がRed Hookで店を再開し、サルは黒人に対する認識を改め、店には黒人の有名人の写真を貼るようになったとしている。
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