一人旅

サイレント・ボイス/愛を虹にのせての一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
マイク・ニューウェル監督作。

アメリカの田舎町に住む少年が、核の全面撤廃を求めて沈黙の抗議を貫く姿を描いたドラマ。

最近は、DVD化されない過去の名作を中古VHSで鑑賞することにハマっている。本作もその中の1本で、ネットで超格安(¥1)で入手。こんな素晴らしい作品がDVD化されないというのは映画ファンとして悲しいし、どこかのメーカーさんがDVD化してくれることを願うしかない。

本作は、アメリカの田舎町で家族と暮らす野球少年チャックが、核兵器のミサイル基地を見学したことで核の恐怖を悟り、アメリカから核兵器が無くなる日まで大好きな野球をやめる...という“核の全面撤廃を訴える一人の少年の覚悟”を感動的な演出で綴ったヒューマンドラマの名作。

核軍縮は可能でも、全面撤廃は現実的に難しい...というのはもちろん承知だが、本作ではチャックの抗議に呼応するように、プロバスケ選手やアメフト選手などプロスポーツ界の一流プレイヤーがチャックの勇敢な抗議に賛同していく。第一の賛同者であるプロバスケ選手のアメイジング・グレイスは、巨額の年俸が約束された選手生活から引退してまでも、チャックとともに核廃絶運動に参加することを決意する。チャックの自宅近くの古びた廃屋を購入し、そこを改装して抗議運動のための拠点にする。バスケ界のトッププレイヤーが少年のためにキャリアを捨てるなんて現実離れしたお話だが、チャックとアメイジングの世代を超越した友情は感動的で、アメイジングの参加をきっかけに次々と仲間が増えていく。チャックの父親は息子の行動に困惑し反発するが、次第にチャックの確固たる信念を受け入れていく。チャックの核廃絶運動が原因で微妙だった父子関係がやがて修復されていくさまもやはり感動的で、何が起きようとも最愛の息子を守り抜こうとする父親の想いに涙が溢れる。

クライマックスは夢物語。現実には考えられないが、これがもし実現したらどんなに素晴らしいことか。一人の少年の覚悟と信念が、プロスポーツ界を動かし、アメリカ政府を動かし、やがて世界を動かしていく。本作が米ソ冷戦末期の1987年製作というのもポイントで、長年の冷戦に疲れ切った両国民の核の廃絶と平和に対する想いが映画を通じて表れているように思う。

主人公チャックを演じたジョシュア・ゼルキーの寡黙ながらも力強い表情が印象的。また、脇を固める名優の好演も光る。アメイジングのマネージャーを『ワンダとダイヤと優しい奴ら』『ブルースチール』『トゥルーライズ』のジェイミー・リー・カーティスが演じる。アメリカ大統領役はなんとあのグレゴリー・ペック。老練の演技で締める。

作風的には『ペイ・フォワード 可能の王国』と似た感動を味わえる、正真正銘の名作。
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