真田ピロシキ

X-ファイル:真実を求めての真田ピロシキのレビュー・感想・評価

X-ファイル:真実を求めて(2008年製作の映画)
3.4
TVシリーズの完結後かなり経ってから製作された劇場版。スカリーはFBIを辞めて医者に専念し、モルダーは世捨て人のように過ごしている。モルダーが指名手配されているが実はTVシリーズの終盤は見ていないので理由は分からない。多分肺ガン男あたりに何かされたのだろう。あいつって死んだの?本作にも肺ガンの人間が出てくるのは奴を連想させる小粋な計らいかもしれない。

モルダーとスカリーはFBI捜査官失踪事件とその事を言い当てたサイキックと目される神父の件でこういった超常現象事件のスペシャリストとしてアドバイザーを依頼される。それで渋りながらも参加するのだが、元々懐疑的な科学的観点を求められてたスカリーは元よりモルダーもそんな簡単には信用しなくて超常現象マニアの変人でありながら切れ者捜査官だった設定は錆びついていない。地道に証拠を集め結論に向かっていて、本作はSFではなくサスペンス映画としての側面が強い。中盤の犯人追跡演出が本格なサスペンスの味わいがあったのも映画をビシッと決めている。これが2016年に復活したTVシリーズだとモルダーは最初小馬鹿にしてた保守系ネットチャンネルの男と陳腐な陰謀論を次々と口に出して盛り上がる体たらくでQアノンを信じてそうなオーラが漂っていた。スカリー、コロナウィルスはエイリアンに操られたバイデンの陰謀なんだよ!とか言ってもおかしくない。名前FOXだしね。あの風貌もくたびれたモルダーにガッカリしたので歳をとってもまだまだ精悍な姿を見れる本作は嬉しい。またスカリーとの結婚したりはしないが深い親愛な仲を随所で見せてくれて、エンドロールの最後の方では眼福なサービスカットも堪能出来てよく分かっていらっしゃる。頼れる助っ人としてスキナー登場の流れもXファイルファンへのご褒美として素晴らしい。

先に書いた通りサスペンス色が濃くて、一応はフランケンシュタイン的な要素があるものの現実的に置き換えると臓器狩り的なニュアンスで処置スタッフを除けばほぼ個人の犯行なので、政府と宇宙人の陰謀に比べるとこじんまりとしている。爆発シーンとかはないし本作のモルダーらはFBIではないので銃を撃つ事もなくて、せいぜい犬と戦ったり鈍器を手に乗り込んだら医者に注射打たれて倒れてしまったり派手さには欠ける。せっかくの劇場版ドラマなのにと思う人がいるかもしれないがこれで良いと思う。劇場版なら派手にしなければいけない決まりなどどこにもない。ましてや本作はドラマ終了後何年も経ってからの映画な訳で、放送時の映画なら出来なかった主人公2人の細かな日常と心情を描いた事には意味がある。特にスカリーが信仰心と残酷な試練を課せられた患者への憐れみの間で葛藤する姿は通して医者として描かれている事もありキャラクターの深みを増している。サイキックペド神父を通して道が見えたのはキリスト教の理解がまだ少ないためかよく分からなかったかな。それはともかく最低限以上の知識は必要とされるがXファイルが好きだった人のための粋なボーナストラックとしてこの映画は良いものです。