nmn

エル・スールのnmnのネタバレレビュー・内容・結末

エル・スール(1982年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

窓から差し込む朝の陽光が少女を照らし、1日の始まりを映し出すところから始まる。朝が来たのだ、ということを実感するだけで少し泣きそうになる。陰影と、静寂がずっと美しかった。

『ミツバチのささやき』のアナは子供のままでいようとしたけど、エストレリャは少女になろうとしていた。成長するということは、「親と子」から「人と人」へと関係性が変わっていくことであるというのはよく言われることだけど、どんな人も体験しうることだからこそ、心の中にずっと残りそうな作品だった。

エストレリャは父の心の奥をじっと見つめていた。父の一番の理解者でいたかったのだと思う。でもきっとわかることなどできない。誰も悪くないのに誰にも打ち明けられない感情を抱えたまま、時間が過ぎていく。沈黙に沈黙で返す父が過ごしてきた時間の重さを思う。思い出を語る言葉は皮肉にも淡々としている。

それでも、父の記憶の中にはいつからかエストレリャがいたのだ。一度も足を運んだことのなかった教会に、娘の晴れ舞台で初めて訪れ、少し距離をとりながらも見守っていた姿が忘れられない。過ごした時間があるからこそ、それと同じだけ、過ごせなかった時間のことを思ってしまう。

資金不足で後編の撮影が叶わなかった未完の作品。父が心を置いてきた南、雪の降らない南へ向かう、その先が観てみたかった。
nmn

nmn