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天国の駅 HEAVEN STATIONのtakのレビュー・感想・評価

天国の駅 HEAVEN STATION(1984年製作の映画)
4.0
18歳になった僕は映画館に出かけた。お目当ては、秋吉久美子の「ひとひらの雪」を観るためだ。熊本東映の入り口には目立つ看板「18歳未満入場お断り」。僕はそれがどうしたっ、と胸を張って入場券を買い求めた。そして4時間後。熊本東映から出た僕は入場する前と変化していた。併映だった「天国の駅」にめちゃくちゃ感動。そう、僕はサユリストになっていたのだ。

ホテル日本閣殺人事件の主犯だった日本初の女性死刑囚をモデルに、薄幸のヒロインがなぜ殺人に至ったのかが語られる物語。吉永小百合が初の汚れ役とか、三浦友和が初の悪人役とか、そんな予備知識は皆無でスクリーンに向かった。

2022年5月、ウン十年ぶりに鑑賞。ヒロインが周囲の男たちに翻弄される様子がとにかく痛々しい。それは初めて観た時も同じだったんだけど、今の年齢で観ると男たちそれぞれの事情があの頃よりも理解できる。ひたすらズルい三浦友和は別にして、傷痍軍人だった夫の嫉妬や悔しさもいかほどかと思うし、望まない妻を押しつけられた大和閣の主人も辛かったんだろなと思う。怪我をさせてしまったことを詫びる津川雅彦の涙を策略のように感じていたけど、本心だったのかもな。それでも映画後半の横暴ぶりは憎たらしいし、許せない。

モデルとなった死刑囚は毒婦とも呼ばれたと聞くが、吉永小百合が演じることへの配慮なのかやむにやまれず至った殺人と描かれる。当時10代の僕が持っていた吉永小百合のパブリックイメージを完全に裏切る役柄のギャップと、イメージどおりの美しさと誰にでも見せる優しさ。
「愛が欲しかったんだと思います」
「どこに行こうとしたのかね」「天国です」
この映画の吉永小百合の演技にともかく心を揺さぶられた。知的障害を抱えた男性役を演じた西田敏行の純粋さと狂気が涙を誘う。

18歳の僕が映画館を出て感じた変化がもう一つ。4時間かけて観た2本の映画両方で、ヒロインを弄んだ津川雅彦が大っ嫌いになったのだw。でも今の年齢ならわかる。あんなに憎たらしいほど性へ執着するエロ親父を、時にダンディに時に狂おしく演じられるのは、津川雅彦しかいないんだ。

鑑賞記録は初回を記す。
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