むさじー

旅立ちの時のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

旅立ちの時(1988年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<親子の葛藤と家族愛、そして青春>

たぶん若い人はリヴァー・フェニックス演じるダニーの恋愛・青春映画として見るだろうが、人生後半を生きる人はクリスティーン・ラーチ演じる母親アニーの心の葛藤を描く家族ドラマにより共感するのではないか。
だから、アニーが裕福な自分の父親と14年ぶりに再会し、かつて暴言を吐いてその元を去った父親に、息子を引き取って欲しいと頼むシーンが最も心に響いた。「親のことを考えたか」と詰め寄る父に「次は私が苦しむ番ね」と寂しげに言う娘。父は引き取ることを約束し、厳しい表情を崩さないまま娘を見送ってそっと涙ぐんだ。“若気の至り”に端を発して人生の負い目を背負い込んでしまった女性が、時を経て子を思う母としての苦悩を吐露する、その母親の顔と娘の心情とが巧みに描かれ涙を誘われる。
また、父アーサーについても、行き過ぎたイデオロギーを問題視しながらも一方的に彼の生き方を否定していない。独善的だが家族思い、というよりアイデンティティを失い家族だけが心の拠り所になってしまった男の切なさがしみじみ伝わってくる。そんな父が息子を突き放すように「自分の人生を生きるんだ、私たちのように。他人に左右されるな」と別れを告げる。子どもを手放す辛さと優しさ、そして自らの矜持を秘めたこの言葉が心に染みた。
極めて特異なシチュエーションではあるが、描いているのは普遍的な家族愛、親と子の葛藤のように思える。甘い青春ドラマにビターな家族のドラマをブレンドした、複雑で深い味わいの映画だ。
むさじー

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