針

真夜中の虹の針のネタバレレビュー・内容・結末

真夜中の虹(1988年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

カウリスマキを観るのは『マッチ工場の少女』、『パラダイスの夕暮れ』に続いて3作目。このなかでは一番ヘンな作品でした。
ジャンルは小市民的犯罪映画? ドラマが転がり始める後半からがちょっと良かった。展開があっけないほどスピーディーなのもあって現実感はあんまりない。

理不尽な運命によって男がどこまでも転落していく物語、みたいに思ったのですが、あとから考えるとこの主人公たちにとっては日常と犯罪は地続きのものなんじゃないかと思う。比較的派手なエピソードもわりと淡々と描いていく感じ、ユーモアの挿入の仕方、悲壮感の無さ、あたりからそれを感じました。彼らにとって「一線を越える」ことにはそこまで決定的な意味はなくて、犯罪は犯罪だけどそれも含めて今までの人生が続いていく感じ。だから主人公もそこまで落胆しないしヒロインも迷わず彼との結婚を選ぶのかなと。

3作観て思ったけど、この作り手って既存の社会秩序とか公的なルールとかをそこまで信じてないところがある気がする。それはもしかするとそうした社会の枠組みがぜんぜん個人を助けてくれないという意識から発してるのかもしれないなと……。
個人的にはそのへんの発見?が一番面白かったです。

ラストで「虹の彼方に」がかかるところでそういえばそういう題名だったなと思いました。いまここにある味気ない現実から離れてどこか別の場所に行きたいという願望も強く感じる作家。

ただし単体の作品としてはけっこう荒削りで展開もムチャクチャなところはあるかな。それと同時に楽しいギャグも多かった。主人公がもらった車を発車させた途端に車庫がバラバラに崩れるところとか、刑務所の面会でお母さんが息子に「そこらで遊んできなさい」と言うところとか。結婚指環も拾いものだし。全然閉められなかったオープンカーの幌が電動式で、ボタンを押したらあっさり閉まるとことかね。
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