アキ・カウリスマキ監督の初期作、『パラダイスの夕暮れ』に続く“労働者三部作”の2作目。炭鉱の閉鎖によって職を失い、地方から都市部へと移動した労働者。強盗騒ぎで全財産を失いながらも何とか食い繋いでいた彼だったが、あるとき出会ったシングルマザーとその息子と親しくなっていく……。
淡々とした話運びによる描写の簡略化、端的な編集に舌を巻くばかり。炭鉱の階段をぽつんと映し出し、そこから草臥れた労働者の姿を通して“炭鉱の閉鎖”を無言のまま描く冒頭のシークエンスからして良すぎる。説明抜きに数分足らずで前提を物語るなど、演出がずっとスマートなのである。前作に引き続き、初期作の時点で既にカウリスマキ監督は自らの作風を確立させているのがよく分かる。短い1シーンに何とも言えぬ“間”を作り出し、そこに素朴かつ寡黙なユーモアを滲ませていく作風がやはり心地良い。要所要所のシュールさが実に味わい深い。
社会の片隅で貧しく生きる労働者達を見つめる眼差し、その緩やかな温もり。主人公を始めとする下層階級の情景が、淡々としたテンポとカメラワークで捉えられていく。そんな中で簡潔ながらも印象に残るシーンが幾度も描かれるのが良い。港沿いの小さな海辺でこじんまりとピクニックする家族三人、短くせせこましいシーンなのに奇妙な充実感に溢れている。日雇い労働のツテすら失った主人公が灰皿の煙草をまた拾い上げて喫煙しようとするような、そんな何気ない描写にさえ愛おしい人間味が宿っている。そして偶々見つけた指輪をエンゲージリング代わりにして、自由の身になってから迷わず婚姻を結びに行く一連の流れがとても好き。
物語が終盤に差し掛かると抑制された調子はそのままに、どんどん劇的な筋書きへと突入していくので驚く。冤罪からの逮捕、脱獄、強盗、逃亡など、やっていることは半ばクライム・ムービーの領域である。この辺りの軌道は如何にも初期作っぽさを感じるけど、それでも作風や語り口自体は一貫し続けているので不思議と違和感がない。ずっと淡々とした語り口のまま映画的な構図を取り込んでいるので、却って素朴な作風が際立っているのが面白い。そして主人公を助けることになるマッティ・ペロンパー、やはり飄々とした存在感に溢れている。
改めて振り返ると『パラダイスの夕暮れ』も港から旅立っていく結末であり、『マッチ工場の少女』も最後はああいった終わり方なので、“労働者三部作”の主人公達は基本的にアウトサイダー性が強く描かれている。社会の底辺でひた向きに生きているけど、最後は何かをよすがにしながら流浪していくような、そんな哀愁が漂う。以後のカウリスマキ監督作にも通じる暖かさを内包しつつも、それと同じくらいにほろ苦さを宿している。そのうえでエンディングテーマは理想郷を夢見て旅立つような希望と切なさに溢れてて、物語に何とも言えぬ余韻を残す。