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遠雷のおーたむのレビュー・感想・評価

遠雷(1981年製作の映画)
3.8
ここ2ヶ月ぐらいで70年代の邦画を何本か見て、なかなか面白く鑑賞できてまして。
まあ、評価が高かったり有名だったりする作品をピックアップして見てるので、それも当然だったりするんですが、そのせいか、その年代付近ぽいタイトルを目にするとそれだけで面白そうに見えちゃう病になっちゃって、借りたのが本作でした。

農業に従事する田舎の若者の、青春の日々と、その終わりを描いたような作品。
青春とはいっても、別にキラキラはしてなくて、ほとばしる熱量や、それと相対する鬱屈が特徴的な、生々しい青春です。
話としては、主人公・満夫とそのお見合い相手・あや子の恋、満夫とその親友と奔放な人妻の三者による三角関係、家を出た父親との確執、その他にも、さまざまなエピソードが同時に進行していく感じ。
一つのエピソードにかかりきりじゃなく、各エピソードともランダムに展開していくので、たしかに日常ってこんな進み方してるよなーと、妙に納得してしまいました。

ちょっと意外だったのは、主人公が、案外前向きで楽天的だというところです。
この手の作品って、ままならない現実の中にある若者が、それを受け入れられずに暴発する…みたいなのが王道の展開だと思ってた私からすると、日々に不満を抱えながらも「それはそれ」と割りきることができる満夫は、かなり健全に見えました。
悲しい出来事もあるし、自身の結婚や親友との長い別れなど青春の終わりを示す描写もちゃんとあるんですが、それでも、人生を前向きに進もうとする満夫のたくましさには、ちょっと感心させられます。
節操はないし、粗野だし、諸手を挙げて絶賛するほどの人物では全然ないんですけど、その人間臭さが妙に魅力的で、見ていて不思議に面白かったです。

その他で言うと、その音楽いつまで続くの?とか、そこで遠雷鳴らすのは取って付けた感じがしない?とか、全体に演出が洗練されてないような印象はありました。
主役級である永島敏行と石田えりも、まだ上手い役者とは言えないし、そうした諸々の要素も含め、なんか不器用です。
ただ、たまたまでしょうが、作品のそういう不器用さも、作中の登場人物たちとリンクするようなところがあって、これまた妙な味わいになってた気がします。
あまり見てこなかったですが、80年代の作品も良いもんですね。
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