映画漬廃人伊波興一

愛なき女の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

愛なき女(1951年製作の映画)
3.9
出鱈目の大家あるいは爆笑の芸術家によるモーパッサン「ピエールとジュネ」の自由な映画翻案 ルイス・ブニュエル「愛なき女」

その異様な作品系譜の中でメキシコ時代は特に人騒がせなルイス・ブニュエルですが、本作「愛なき女」が公開された時はあの「忘れられた人々」の余韻がまだ残ったままの筈ですから当時のファンの方々の困惑ぶりが目に浮かびそうです。
実際、この映画の評判は芳しくありませんが、なんのなんの、どうしてどうして、シノプシスから見れば通俗的ながら語り口は型破り。
ブニュエルほどの才能なら二部構成などにしなくても二人の息子が成人後のエピソードから全体をすっきりまとめ上げるなど容易いはずなのに、アマチュアリズムに徹したように強引な時系列展開で観る者を巻き込みます。
最後にどう収束されるのか?さぞかし派手な破綻を用意しているかと思いきや、恐ろしいくらい手前勝手なご都合主義で締めくくるところなど、傍若無人ぶり極まり。
映画なんてそもそも手前勝手なものかもしれませんが、他ならぬ当のご本人がもしかしたら一番手前勝手な私たち観客たちに「観るも観ないもご勝手に」と思っていたのかもしれません。