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マンハッタンのたくのレビュー・感想・評価

マンハッタン(1979年製作の映画)
3.8
ニューヨークで繰り広げられる男女の取るに足らない恋愛劇をモノクロ映像で描くウディ・アレン1979年作品。相変わらず神経症的なウディ・アレンの高速なおしゃべりが空回りする展開で、「アニー・ホール」の2年後となるダイアン・キートンとのぴったり息のあった演技が微笑ましくも、本作が撮られたのがウディ・アレンと別れる直前だと思うとちょっと切ない。メリル・ストリープはこの頃からもう無敵感が漂ってる。男女の複雑な愛憎劇を、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」に始まる古き良きアメリカ音楽でオブラートに包み込んでるのが印象的。

冒頭、ニューヨークの魅力を語る自著の第1章の書き出しを何度もやり直すところから、早くもウディ・アレン演ずるアイザックの強迫神経症的な気質が顔を出す。42歳の彼が17歳の女子高生のトレイシーと付き合ってるというのが、ウディ・アレンの性加害疑惑報道を知った後に観ると非常に不穏な設定に感じる。これはおそらくアイザックの精神年齢の低さを表してると同時に、こんな若い美少女にも愛されるんだというウディ・アレンのモテ自慢にも感じてしまう。さらにアイザックが親友のエールの不倫相手であるメリーに最初こそ不快感を感じたものの、次第に意気投合して付き合うことになるというハーレムぶり。

アイザックがエールと付き合うためにトレイシーに別れを告げ、結局は二兎を追う者は一兎をも得ずということになるのが、本作については切なさよりはそれで良かったという妙な安心感が残る。トレイシーは本作の登場人物の中で一番ブレないキャラで、ちょっと女神を思わせる存在であり、女性の強さの象徴として描かれてるように感じた。街の通りで稲垣浩の「忠臣蔵」の看板が一瞬映り込むのが目を引いた。BGMの演奏はズービン・メータ指揮のニューヨーク・フィルで、この組み合わせといえば昔にCBS・ソニーから出てた「展覧会の絵」「ラ・ヴァルス」の絢爛な演奏に惹かれて何度も聴いたのを思い出す。
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