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ナイル殺人事件のArataのレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(1978年製作の映画)
4.4
リメイク版が公開されている事もあるが、以前に読んだ武部好伸先生著の「シネマティーニ銀幕の中の洋酒たち」の中で、お酒が犯行のトリックに使用される映画としての紹介があり、見たい見たいと思っていた。

音楽はニーノロータ氏で、サウンドトラックのLPは以前から持っており、たまに聞いているのだが、やはり映像と共に聴くとまたひと味もふた味も違って良かった。


1978年の映画と言う事で、映像が大変に綺麗で感激。
カメラワークもとても良い。引き込まれる。

ピラミッドにあの様に登れるのなら、いつか登ってみたい。
舞台は1930年代頃と思われ、服装ひとつとっても大変美しい。

ポアロの推理を、役者さんがいちいち再現して見せてくれるところが面白い。
黒澤明監督の「羅生門」に代表される作り方と思えた。

富とは何か、愛とは何かを考えさせられる。



出てきたお酒は、シャトーペトリュス、カカオリキュール、黄金のセベックなど。

①シャトーペトリュス
シャトーペトリュスは、犯行の謎を解く鍵として登場するので、とても興味深い。
字幕では、「高級ワインには澱が浮くんだ」とだけだが、実際のセリフは、“that's the normal sediment for a bottle of château Pétrus”つまり、「良いシャトーペトリュスでは澱が出るのが普通だ」と、具体的な銘柄を言っている。
シャトーペトリュスは、フランスのボルドーで、長期熟成を行う高級赤ワイン。
ちなみにこの「澱」と言うのは、ポリフェノールやタンニンなどが結晶化、ミネラル成分などが結合したもので、カビではない。
高級ワインだから出るわけでも無ければ、長熟ワインには必ず出る訳でもない。
デキャンタージュして、澱を取り除いてから飲む事もよくある。


②黄金のセベック
個人的には、こちらが本命。
これは架空のカクテルなのか、原作が書かれた時代に実在したものなのかは不明。
「首切り女と同名のサロメが、頭がワニの神セベックと言う名前のカクテルを飲んでいる。」
と言うシャレなのかも知れないと、無駄な深読みをしてみる。
セリフでは、クロコダイルとも言っている。
クロコダイル信仰のナイル川流域にちなんだものなのだろう。
ちなみに、クロコダイルクーラーと言うカクテルはあるが、グラスの形状などからして別物と思われる。
クロコダイルの名前に似つかわしくないフルーティさと、クーラーの名前通りの涼やかなカクテルだ。
レシピは、
・シトラスウォッカ
・ホワイトキュラソー(オレンジリキュール)
・メロンリキュール
・レモンシロップ
・ソーダ
お好みでフルーツを飾る。
あくまで想像だが、セリフでは「地元のフルーツを使ったカクテル」との事なので、リキュール類はフルーツを絞ったジュースを使用し、ソーダを加えていないものなのではないかなと思う。
ホワイトキュラソーは、オレンジのリキュールだが、その名の通り白い(透明)液体で、水を加えると油分の乱反射によって白濁する。
メロンリキュールは鮮やかな緑色。※1930年代には、メロンリキュールが無かった可能性が高い。
ここにレモンなどの柑橘の果汁が加えられ、やや白みがかった黄緑色の液体なのだが、ここでは割と黄色い。
オレンジのジュース、メロンのジュース、レモンやライム、そしてベースはシトラスウォッカではなく、ジンではないかと思う。
理由は、サロメが乗組員からゴードンジンの瓶を横に流してもらうと言う描写があるからだ。
ジンにはジュニパーベリーやその他スパイスはもちろんだが、柑橘の香りもあるので、代用する事も考えられる。
故に、ここに勝手に黄金のセベックのレシピを想像すると、

・ゴードンジン1/2
・オレンジジュース1/4
・メロンジュース1/4
・レモン果汁少々
・砂糖少々

これを、ミキシンググラスの様な容器で、あらかじめ数杯分作って提供している。
と言うのが、個人的に考えるレシピだ。

もしくは、梅酒の要領で作った自家製のリキュールを使用しているか。
ベースに使用するお酒がゴードンジンだから、何本も横流ししてもらっているのかも知れない。

しかし、ここまで考えて原作にレシピが載っていたらお笑いものだ。

と、推理モノの小道具を推理する夜。
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