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海の上のピアニストのmarohideのレビュー・感想・評価

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
5.0
素晴らしい映画だった。
音楽は言うに及ばすだが、作中で語られる言葉の一つ一つが胸に響く。

観ている最中、フィッツジェラルドの作品群が思い出された。
冒頭、霧の中から姿を表す自由の女神を見て「アメリカだ!」と叫ぶ移民。20世紀初頭のアメリカとは、実際にそのような場所だったのだろう。この時代の人々は誰しも、1900年という時代を背負わずにはいられない。そういった意味で1900(ナインティーン・ハンドレッド)の物語は、去りゆく時代の物語でもあると言える。豪華客船は病院船となり、ドレスを着てダンスを踊る人々は姿を消す。実に多くのものが変わってしまったのだなと思う。

1900とマックスの確かな友情が良い。数奇な運命を辿った1900に比べ、マックスは言うならば普通である。陸で生まれて陸に帰る。富と名声、幸福な家庭という平凡な幸福観を持ち、音楽も(腕は良いのだろうが)1900のような天才性はない。しかし、だからこそ彼らに友情は壊れることがなかったのだろう。
最後のシーン。決してわかり会えない、説得できないと悟ったマックスの涙は痛切である。それだけに、別れ際の軽妙だが味わい深いやり取りが実に良かった。

映画らしい台詞回しに、映画らしいカット。儚さと華やかさ、粋な格好良さと人生の苦々しさ。それらが詰まった実に良い作品だった。いいものが見れた。
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