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海の上のピアニストのEyesworthのレビュー・感想・評価

海の上のピアニスト(1998年製作の映画)
4.9
【船上のゆりかごから墓場まで】

『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督・脚本ジュゼッペ・トルナトーレ×音楽エンニオ・モリコーネ×主演ティム・ロスが織り成す幻のピアニストの生涯を描いた作品。

〈あらすじ〉
1900年、大西洋上を行く客船の中で生後間もない赤ん坊が見つかった。生まれ年にちなんで「1900(ナインティーン・ハンドレッド)」と名づけられたその男の子は、船内のダンスホールのピアノの音に親しみながら育っていく。そのようにして船の中で育った彼は、やがて驚くべきピアノの才能を発揮するようになる。彼の噂は海の上から陸の上へと流れ、それを聞きつけてやってきたたくさんの人々を魅了。しかしそんな中、彼に「恋」という転機が訪れる。そして生まれて初めて陸に上がる決断をするが…。

〈所感〉
『ニュー・シネマ・パラダイス』とどちらが優れた作品かと聞かれると最早好みの問題だと思うが、私はこちらの方が好きかもしれない。船の上には光と闇がある。この作品はどちらかといえばその眩い光にスポットを当てた印象だ。冒頭のアメリカが近付いてきて自由の女神を皆が仰ぐシーンは壮観だった。新世紀の落とし児である1900は、死ぬまで船の上て生きたため、歴史上のどの記録にも残っていない唯一の"存在しない人間"である。そんな彼の記憶を唯一持っている人間、それがマックスだった。マックスは幻のピアニストを求めて廃船へと向かう。そこで再開した二人のラストは、この映画のすべてを包括した夢のような話で締めくくられた。「いい物語があって、それを語る相手がいれば、人生は捨てたもんじゃない」
1900にとって陸の世界は無限の鍵盤であり、そこで何を選び、何を望み、生活していくのか多岐亡羊としており、未来は一切見えない。そのため彼は自分がずっと見知ってきた海の世界で一生生き続けることを選んだ。歴史上初めて陸に上がらなかった人間1900は、ピアノという88個の鍵盤から増えることも減ることもない有限な世界を選んだのだった。彼にとってはそれが自然であり、最も幸せな形だった。人の幸せは人それぞれであり、こういう人間もいる、と言ってしまえばそれまでだが、我々の感覚からすると彼が不憫でならない。それも杓子定規な見方なのだろうが、彼の理想の世界線も見たかったな。
旅に出る前と旅に出た後の心境を思う。旅に出る前は家を離れ新たな場所に行く楽しみでいっぱいだが、旅に出た後はやっぱり家が一番だなと思う。そんな映画だった。ただ、ヒロインとのキスシーン、ロマンスの続きはもっとどうにかならなかったのか…。
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