耶馬英彦

セルビアン・フィルムの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

セルビアン・フィルム(2010年製作の映画)
3.5
 情報公開を要求したときに役所が出してくる黒塗りの文書がある。何故かそれを思い出した。日本のAVではモザイクがかけられているが、あれは黒塗り文書と一緒で、あまりよろしくない。日本ではポルノ映画でなくてもモザイクがかけられる時代が長く続いていた。
 このところ、漸く普通の映画からはモザイクが取れ、映っているべきものが映っているようになった。顔がひとりひとり違うように、性器もひとりひとり違う。ありのままを映すほうがドラマに真実味が出ると思う。

 本作品はポルノ映画ではないが、ポルノ映画を題材にしているから、映すべきものはそれなりに映っている。ドラマとしての映し方だからエロティスムはあまりない。ただ、主人公がどうして人気のポルノ男優だったのかはよくわかった。
 途中まではなんだか胡散臭い映画に出ることになった元ポルノスターが厄介事に巻き込まれるのかなという程度だったが、映画「ハングオーバー」を彷彿させる終盤はまさに怒涛の展開で、急にテンポが快調になる。セックスに取り憑かれたような登場人物たちが繰り広げる惨劇は、快楽を命懸けで追求する亡者の群れそのものだ。

 キリスト教的な禁欲主義が招いた反動が暴力に結びつき、しかしキリスト教的な教条が暴力を正当化するという皮肉が、本作品の底流にある気がする。映画「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」は神父による少年への性的虐待を告発しているが、本作品は告発ではない。偉そうにしている紳士も、股の間にはわがままな棒を一本ぶら下げているじゃないか、というシニカルな指摘をしているのだ。

 ゴア描写満載のスラップスティックとして捉えれば、本作品は文学的にさえ感じられる。製作者はユーモアのセンスもあり、ポルノ女優が使っていたペニス型ライターが笑えた。
耶馬英彦

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