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シェルタリング・スカイのtomひでのレビュー・感想・評価

シェルタリング・スカイ(1990年製作の映画)
5.0
歌舞伎町タワーに新しく出来た、坂本龍一が音響監修で全席プレミアムシートという映画館で、『シェルタリングスカイ』が期間限定で上映されるというので行ってみた。『シェルタリングスカイ』を観るのは今回で3回目。久しぶりに観直したがやっぱり傑作だった。エンドロールで余韻に浸れる映画ってめったに出会えない。ベルトルッチの世界を堪能した。

=========以下ネタバレあり===========

結婚して10年が経ち倦怠期に入っているカップル(作曲家のポートと劇作家のキット)が二人の新しい関係性、今とは違う何かを求めて北アフリカを旅する話。愛の映画であり人生を見つめ直す映画。

背景となる北アフリカの風景がとても美しい。カメラは巨匠ヴィットリオ・ストラーロ。映画中盤でポートが病気になり、彼を寝かせたキットが砂漠の夕景を歩く移動ショットが超絶美しい…こんなショットよく撮れたと思う。

映画後半、ポートが亡くなり、この映画からセリフが殆どなくなる。暫く画と音だけで展開される。異世界に放り出されたキットの現況を観客に疑似体験させるような巧いつくり。パスポートもフランス紙幣もそれらが単純に紙でしかなくなる異文化、別世界に引き摺り込まれていくキット…。今まで築いてきた価値観が徐々に崩壊してゆく怖い怖い映画。そしてこれらを殆どセリフなしで演出してしまうベルトルッチ、凄すぎるよ。

この映画の原作者ボウルズが冒頭、中盤、ラストに出てくる。そしてラストシーンで劇中のキットにボウルズは訊ねる。ボウルズ「迷ったのかね?」キット「ええ」

映画はこのあとボウルズのナレーションで終わる。映画の結末を観客に投げ掛け、深い余韻が残る終わり方、見終わった後に考える映画…ベルトルッチ大好き。坂本龍一の音楽も素晴らしい…。因みに坂本龍一がこの映画から27年後に作ったアルバム「async」の中の一曲でこの映画のラストシーンのボウルズのセリフがそのまま使用されている。

「人は自分の死を予知できず、人生を尽きせぬ泉だと思う。自分の人生を左右したと思える程大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に思い浮かべるか?せいぜい4、5回思い出す位だ。あと何回満月を眺めるか?せいぜい20回…だが人は無限の機会があると思う」

【追記】歌舞伎町タワーの109シネマズプレミアム新宿、料金はお高いがとてもいい劇場だったのでベルトルッチファンの人はお見逃しなく(笑)
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