Ricola

愛情の瞬間のRicolaのレビュー・感想・評価

愛情の瞬間(1952年製作の映画)
3.7
医師のピエール(ジャン・ギャバン)は、偶然にも妻マドレーヌに若い愛人がいることを知ることになり、二人の関係を彼女に直接問いただす。

夫婦の会話を通じて、過去と現在を行き来しながら物語が進んでいく。


ピエールがマドレーヌの不倫を問いただすとき、彼は壁掛けの時計の針をいじる。
その行動から、二人の会話を通して回想シーンが始まるのだ。
ピエールは彼女に、過去から現在までの真実について話すように促す。
彼が時計の針を動かすことで、現在から過去へと物語を起点を動かすのだ。

もう一点、大きな鍵を握るモチーフはタバコだろう。
タバコの特定の銘柄の吸殻から持ち主を推測したり、現在でのタバコをすり付ける動きから回想に一瞬移るなど…。
また回想のなかでもタバコを機にショットが切り替わるなど、タバコが過去と現在を結ぶだけでなく、ショットを結ぶ役割を担っている。
マドレーヌがタバコの煙をフーっと吹くと同時にカメラが煙のまく方向へ動き、ピエールと女性をカメラがとらえる演出も、タバコがキーとなっている。

現在の時点で二人の会話が繰り広げられているが、映像が回想となっても時折音声は現在の二人の会話であることがある。
さらに会話中のどちらかの指摘によって、映像が止まる。
それはこの作品のタイトルの通り、彼らの話し合いや関係において重要な「瞬間」を切り取るような演出である。

マドレーヌの愛人役を演じたダニエル・ジェラン。彼の役柄は、粗野で強引だけど一途なキャラクターである。
繊細だから相手の気持ちも察して、それに対して寂しそうな表情をするのだ。
こういう役がジェランははまり役であると思う。
マドレーヌという人妻にちょっかいを出すという立ち位置だが、なんだか憎めないのは、そのキャラクターはダニエル・ジェランという俳優にぴったりでありつつ、彼の背景もある程度語られているため、彼の言動に説得力を感じられるからだろう。

少し意味深な表情を見せつけてくれたラストショットからも、単なる夫婦のいざこざや妻の不倫を描いた作品でないことは明らかだろう。
回想やモチーフがうまく組込まれているなかで、主にマドレーヌの心の動きが繊細にとらえられているため、単純な感情移入で終わらない作品であると感じた。
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