このレビューはネタバレを含みます
純粋無垢で恋そのものに憧れる少女は、祖母の恋人の肖像画に恋をしている。その幽霊が彼女の恋やお屋敷をかき乱していく。
ファンタジーストーリーに少しホラーな要素が加わるも、基本的に優しい世界が繰り広げられる。幽霊役のジャック・タチの飄々とした雰囲気がそういった優しい雰囲気をもたらしていると言っても過言ではないと思う。
幽霊のアランは息を吹いて、生者たちに自らの存在をアピールする。主人公シルヴィの口うるさい伯母がタバコに火をつけようとするところを邪魔したり、シルヴィが誕生日ケーキのロウソクの火を消そうとふーっと吹きかけても、1回で消えたら1年で結婚すると言うのを聞き、彼女の口の前に手を壁のようにして息をロウソクに当たらないようにする。アランは生者に話すことも見られることも不可能なので、自分の意思を息で示すのだ。語らずも表情や動きで伝えるのがやはりうまいのはさすがジャック・タチ。
また、相手の顔が見えないからこそ、正直な思いを伝えられる。シルヴィもシルヴィで、会ったことない、亡くなった人の肖像画を見て恋をするのも、恋そのものに憧れているから。相手も相手で、自分の正体が明かされていないからこそシルヴィに勇気を出して告白ができるのだ。
シルヴィの祖母の形見のカメオを机にそっと置く。それまで話題に上がるものの、カメラにはその存在が映っていなかった。星形のカメオにアランは触れ、彼は持って行く。と言っても霊の世界において持っていくので、実物はそこにあったままである。
シルヴィの恋への憧れは祖母とアランの思いをつなぎ、彼への敬意を持ったまま彼女は一歩成長する。幽霊騒動でシルヴィは自分の気持ちが揺れ動くも整理をする機会となり、「本物」を見抜くこともできた。ユーモアと人間の優しさに溢れる素敵な作品だった。