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扉をたたく人のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
3.9
リチャード・ジェンキンス初主演。上手いわ。一緒にいる人を気まずい思いにさせる固く無愛想な大学教授ウォルター。てっきりこの大学教授が隠れ不法移民なのかと思っていた。

善人であっても不法移民は、手続きを重視する入管法の前では無力。誰も助けられない。虚しさが残った。

原題は'Visitor'。アメリカへの訪問者(移民)と教授の心を開かせた移民(訪問者)の両方にかけていると思うが、邦題もいい。

タレクの太鼓のビートがウォルターの凍りついた心を少しずつ震わせ、ウォルターの脈が打ちはじめ、身体中に熱い血が巡っていく。互いに太鼓で呼応しあう喜び。

タレクの母親とのロマンスはウォルターの片思いに留めた方が余韻がもっと残ったんじゃないかな。

アメリカらしいニューヨークの「人種のるつぼ」(すでに死語?)を感じられた。Where are you from?が挨拶代わり。出身国を答えるのに、結果的に無力だった弁護士が'Queens'と答えるシーンがやるせなかった。弁護士もまた伯父が強制送還された過去をもつ。故郷を捨て、アメリカ人になろうとして、過去を一切捨てざるを得なかったのだろう。

タレクの恋人ゼイナブが無邪気にエリス島や自由の女神の観光を船から楽しむシーンもよかった。アメリカには自由の女神のもとにアメリカ人になった移民と不法移民がいることを象徴していた。エリス島は希望の島である一方、かつては選別の島。

それにしてもウォルター役リチャード・ジェンキンスの演技は本当に素晴らしかった。対人関係が苦手で(タレクの母親を意識しすぎたり)、緊張している演技が演技に見えない。緊張のあまり台詞忘れたり赤面したり凍りついているようにみえた。タレクの母親へ抱く淡い恋心も不器用なウォルターにしては頑張ってた。名脇役らしいのに、Filmarksのリストの中に私が観たのは一つもなかった。また出会えますように!
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