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扉をたたく人のRyukiWのレビュー・感想・評価

扉をたたく人(2007年製作の映画)
4.2
【「叩かれた」扉は「開かれた」のだろうか?】


邦題だけ見ると明るい未来の訪れのようなポジティブなイメージを持ちます。しかし、実際はそうでもなく捉え方によっては悲しい話だったと思います。

派手でもなく盛り上がるシーンもないですが、この映画の持つ雰囲気に強く惹かれました。たいてい開始10分くらいで「あ、この映画好きだな」となるのですが、この映画はまさしくそうでした。

リチャード・ジェンキンス演じる孤独な大学教授の心を閉ざしだ物悲しげな眼差しがとても良かったです。

その閉ざした扉を叩いたのが、あの二人だったのでしょう。
彼の優しさや少しの好奇心と勇気が、二人との交友に変わっていきます。ジャンベを通して友情が生まれていく場面は不思議と涙がこぼれました。

音楽ってそう考えると素晴らしいですね。ジャンベのレクチャーシーンでは思わず一緒に練習してしまいました。

しかし、その流れでハッピーエンドとは行かず、事態は悪い方向へと転がり込んでしまいます。しかし、ある意味華やかな部分ではなく移民問題の闇を現実的に描いたことに意味があると思いますし、残酷な現実を視聴者に突きつけ、アメリカの移民問題を「知る」きっかけになる良い映画だと思います

アラブ系のものを見たらテロリストだと思う。10年前の映画ですがその傾向は今でも続いていると感じます。たしかに9.11のテロがあり、アラブ人の印象に大きなダメージを与えたのは事実ですし、嫌でも偏見を持って彼らを見てしまうのは当たり前です。自分の身は守りたいですからね。
ただ、本当のテロリストは金持ちだ。というセリフ通りまさにそうなのです。不法移民からテロリストは生まれません。
そのあたりの無知も移民問題の残酷な現実を作っていると思います。

私はこの映画で好きなシーンが3つあります
1つ目は、ウォルターとタレクが公園でジャンベのを演奏するシーン。二人がお互い目を合わせながら本当に楽しそうにしているのがたまらなかった
2つ目は、刑務所で普段は寡黙なウォルターが怒るをぶつけるシーン。普段物静かな彼だからこそ、彼の行き場のない怒りが強く伝わり、彼の心の変化も感じられました
そして3つ目はエンディングシーン。ウォルターが地下鉄の駅構内でジャンベを演奏するシーン。もはや演奏と呼んで良いのかわかりませんが、彼の心を表す演奏だったと思います

ウォルターは少なからず変われたのだと思います。映画は悲しい結末を迎えますが、その後の登場人物の未来は視聴者側が精一杯明るいものとして描いて、ハッピーエンドに染め上げていって良い作品だと私は思います。

とにかく名作です。
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