なつかし二番館

夏物語のなつかし二番館のレビュー・感想・評価

夏物語(2006年製作の映画)
4.1
イ・ビョンホンが若い女の子といちゃつく映画と思いきや,予想外に深みのある良い映画だった。
よく低予算映画では時代を考えない今風衣装が使われるが,ちゃんと昔のシーンは昔らしさが出ていた。
半分くらいのところで結末がわかるので,残りを何に使うのか気にかかったが,あれで良かったと自分は思う。
2度の別れの場面。大学本部の建物から降ってくるビラを見上げるジョンインの何か吹っ切れた様な表情。駅で頭がいたいといっておきながら,何故か何度もソギョンの手を握り返し,放そうとしないジョンイン。また会うことがあったら今度は絶対手を放さないで,と心の声。その後の消息を詳しく描かなくても十分感動的だ。

ただ韓国物好きだけの人には予備知識が必要と思う。整理する。

ヒロイン:ジョンインは8歳(数え)のとき父とともに村に図書館を建てた。図書館作リを手伝いながらジョンインは「これで村の人への罪滅ぼしになる」と思った。その後父は報復を恐れ北朝鮮に逃れている。このときは1950年の朝鮮戦争開始後,同年中に仁川逆上陸があり,38度線を越えて北進するまでのわずかの時期の出来事であるから,1943生まれである。後に父子は村長から「俺の息子を殺した赤の連中」と呼ばれるが,実際にはゲリラには加わらず独自に文化活動をしていたが,韓国側に敵と思われ北に行かざるを得なかったのだろう。
(朝鮮戦争は金,李双方の側で敵と見なした民間人を大量に殺している凄惨な内戦である)
主な思い出はアポロ11号が月面着陸するまでの夏から秋。すなわち69年の出来事である。このとき,ジョンインは数え27歳になっているはずである。
イ・ビョンホン演じる大学生ソギョン:特に年齢差を表す描写もないから,彼も同世代と見なして良いだろう。
ソギョンは資本家の父への反抗から学生運動に顔を出したりするが,事実は単なるサボり学生で,活動仲間を金持ちの女子大生との合コンに誘ったりしているが,そういう女子学生に自分は嫌気がさしている。とにかく毎晩飲み歩いていた。
農村への奉仕活動に行こうとの誘いにいやいやついていった先で偶然ジョンインと出会う。
この時期,朴正熙独裁時代であるが,政治的には戒厳令下夜間外出禁止と反対派弾圧を行いつつ,親日的で近代主義者でもあったから,文化面では開放的な面もある。村で学生たちによって上映される映画は自由恋愛がテーマだが,韓国内で作成されたもの。
学生が帰るときが来た。村人は農作業を手伝ってくれた学生に素朴に感謝する。記念写真の場にジョンインはいない。一緒にソウルに行こうというソギョンにジョンインは笑顔で帰ってと告げたのだ。
その夜ソギョンはしかし帰ってきた。一生そばにいる,一緒にソウルに行こう。
こうしてソウルに二人はやってきた。退学届を本部に出しに行くのだ。二人手をつないで大学に入り,知り合いに挨拶する。当時人前で手をつないで歩く男女なんて誰もいない。ソギョンはしかし退学する事実は伏せておきたかったのか,本部前にジョンインを待たせ,自分の鞄も預けた。これが悲劇を深めると知らずに。
情勢に疎いソギョンはこの日学生が本部周辺で決起集会を開き,機動隊が包囲するだろうということを知らなかった。
警察の拷問はひどいものだったはずだが,映画では,殴られたりはするが,そこまでひどく描かれず,ソギョンの鞄をジョンインが持っていたことをもとに,心理的に追い詰められる二人の様子が描かれる。
日韓基本条約に伴う祝い金と借款を得て韓国は好景気に沸いていた。ソギョンの父もその波に乗っていた。ソギョンには女との関係を聞かれても知らないと言え,ジョンインには君がソギョンのために何ができるか考えろ,と言い含め,裏で手を回してソギョンを釈放し,遅れたがジョンインも,北に逃げた人物の娘でも今回はソウル見物に来て荷物を預かっただけということでとにかく釈放された。
二人はさまよう様に駅に向かう。ソウルからは離れたかった。ジョンインが頭がいたいと言うのでソギョンは薬を買いに行く。帰ってくると,ジョンインはいなかった。
月日は流れ,ソギョンは人気の大学教授だったが,病で辞め,TVの企画でジョンインの消息を知ることになる。

低評価なのは良くわからないが,考えられる理由としては,自分がそういうのは嫌だなと思った,イチャつき映画を期待して裏切られたケース,もう一つは,後半の展開はどうなのか,と言うくらいだろうか。