りえぞう

黒水仙のりえぞうのレビュー・感想・評価

黒水仙(1946年製作の映画)
3.8
実際には存在しない黒水仙。このミステリアスなタイトルとジャケットの美しさに惹かれて鑑賞。

イギリスからヒマラヤ僻地に赴任した五人の修道女の物語。修道院は断崖絶壁に建ち、「風や澄んだ空気にも逆らえず、山からも逃げられない」環境と、いわくつきの宮殿のエキゾチックな雰囲気が、シスター達の信仰心を惑わせ、内に秘めた女性本来の欲望が見え隠れしだす。

映画の中にも登場するが、黒水仙とはNarcisse noir (ナルシスノワール)という香水の名前。どんな香りか調べてみると、水仙の爽やかで可憐な印象と黒が象徴する大人の官能というパラドックスを香りで表現した香水とか。

柑橘のビターなトップノート
ローズ、ジャスミンがオレンジフラワーと融合することで、微かな甘みを伴い、可憐で爽やかなミドルノート
シベットやムスクと絡み合って、パウダリーで官能的な深い香りのベースノート…

「しとやかさと大胆 官能と純潔」である黒水仙はまさにクローダとルースを表現しているようだし、香りの流れもストーリーの展開に似ている。

修道院で奉仕活動をするシスター達の生活を描く前半から一変、後半は同国人のディーンを愛してしまったルースが嫉妬で逆上する愛憎劇に。真っ赤なルージュをひき、赤いアイラインと光の陰影で、ルースの美しい顔が忽ち不気味になり、まさにそこからはホラーサスペンス。

青白い修道院に赤を身に纏うシスター。当時の最先端であったテクニカラーは今見ても色褪せることなく美しい。

そして美しいと言ったら、デボラ・カー‼︎
彼女の凛とした美しさと“色”が印象に残る映画でした。
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