akrutm

シリアの花嫁のakrutmのレビュー・感想・評価

シリアの花嫁(2004年製作の映画)
4.7
イスラエル占領下のゴラン高原を舞台に、イスラム教ドゥルーズ派の花嫁モナがシリアにいる新郎の元へ嫁いでいく一日の出来事を描いた、エラン・リクリス監督のドラマ映画。本作は、監督自身がドキュメンタリーとして撮影した実話から着想を得ている。そして、イスラエル人のエラン・リクリス監督とパレスチナ人のスハ・アラフが共同で脚本を担当している。

かなり以前に国際線の中で見て強く印象に残っていて、久しぶりにあらためて鑑賞。現在も変わらない中東情勢によって引き起こされた悲劇を、結婚という慶事を通じて印象的に描きながら、家族の絆や女性の自立などの複数のテーマを巧みに融合したストーリーが、本当に素晴らしい。将来にかすかな希望を持てるような結末でありながらも、ハリウッドエンディングに終わらず、とても考えさせられるラストシーンも秀逸である。ちなみに、Filmarks でも使われている日本版DVDパッケージは、映画の内容や雰囲気を全く伝えようとしていない(もしくは理解できていない)詐欺的なジャケ写である。アホか。

中東情勢を知らなくても内容は理解できるが、なぜ?という疑問が浮かんだままだと本作の素晴らしさを十分に享受することはできないので、事前に少しだけ知識を頭に入れておくとよい。第三次中東戦争でイスラエルが占領して現在でも実行支配の状態が続いているゴラン高原が舞台。ゴラン高原に住んでいるイスラム教ドゥルーズ派は、イスラエルの占領に伴って、シリア側とイスラエル側に分断され、両国に国交がないためにお互いに行き来することができない。なので、イスラエルが実効支配している地域に住んでいる花嫁のモナは、シリアに住んでいる新郎に嫁ぐと、二度と故郷に戻ることができなくなる。

この現実が本映画の核になっているが、さらに、花嫁の父が親シリア派ということで国境地帯に近づくことが許されていないとか、故郷を捨ててロシア女性と結婚した長男とは勘当状態であるとか、女性の自立をめぐって長女は封建的な夫とうまく言っていなとか、様々なトピックが織り込まれている濃い内容が魅力的である。後半の舞台となる国境の緩衝地帯には国連の兵力引き離し監視軍(平和維持軍)が駐留していて、そのスタッフが両国のイミグレーションの橋渡しをするのだが、そのやり取りも興味深い。

出演している俳優たちの演技も素晴らしくて、ドキュメンタリーを見ているようである。花嫁のモナ役のクララ・フーリと父親・ハメッド役のマクラム・フーリは、実の父娘である。そして本映画の主役であるモナの姉を演じるのは、フランスを中心に活躍しているパレスチナ人のヒアム・アッバス。また、国連スタッフの女性を演じているジュリー=アンヌ・ロスもフランスで活躍している女優である。最後に、アラブ地域に実際に行ってみると実感できるが、アラブの女性は本当に美しい。世界の中で最も女性が美しいのはアラブであると個人的には思っている。
akrutm

akrutm