阪本嘉一好子

シリアの花嫁の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

シリアの花嫁(2004年製作の映画)
5.0
この映画の最初の画面で、状況説明があるのでありがたかった。『イスラエルとシリアの境界であるゴランハイツのMajdal shams(マジダル・シャムス)は最も多くのドゥルーズ派の村が存在する。1967年にイスラエルによって占領されて以来。ドゥルーズ派の人々の忠誠はシリアとイスラエルに分かれている。国籍は不確かである。』と。

2000年のアサド大統領の死後、息子が政権をとった時代のゴラン高原の領土を頭に入れておいてこの映画を見たいが、実はあまりにも紛争が長く続き、その歴史を追っていないのでわからないところもある。映画では息子のアサドの方がよりイスラエルに対して強気のようだと。イスラエル占領地域に住んでいるドゥルーズ派の家族はイスラエルの統治に反旗を翻すデモを起こし、シリアに帰属したがっている。でも、中には親イスラエル派の人もいるようだ。
この中で仲介に入って停戦を維持しているのが国連兵力引き離し監視軍(United Nations Disengagement Observer Force: UNDOF)」である。国連のhpでは現在も駐留していると書いてある。この分離地帯をイスラエルとシリア側を行ったり来たりして出国入国スタンプをもらいに駆け回る職員がジーン(Julie-Anne Roth )である。イスラエルの出国許可書に『イスラエル』と書かれてあることに反駁するシリア。シリアにしてみれば、そこはシリアの国で『イスラエル』ではないし、モナの家族もシリアに属していると思っている。この水掛論が滑稽に描かれていて、その間にモナは UNDOF地域に一人で入っていき、この二カ国の政治問題より愛の方が強いとしてこの話は終わっている。


私はモナのお姉さんアマル(ヒアム・アッバス)の力強さについて少し書きたい。なぜ、興味があるかというと、イスラムの中でまた少数派の民族ドゥルーズ派の家庭の中で自分軸を持ち、生き方を見つけ、兄弟や父親Hammed (Makram Khoury)にまでアドバイスを入れ、父親に代わって、新次期世代の長になれるようなものの考え方や素質を持っている存在は稀のように思えるから。確かに兄弟二人は外国に住んでいるし、妹であるモナも外国?に嫁に行く。家族でアダジル・シャムスに残るのはアマルの家族(夫と子供二人)と両親だけである。
それに、夫アミンAdnan Tarabshiと父親は伝統的な思想の持ち主のようで、家長・シリア人としてのプライドを意識している。夫は周りの人々が自分の家族や自分をどう見るかが大事なようだ。『人の目を気にする」(アマルがパンツを履いているとか、長女の彼がイスラエルサポーターだとか噂で言われていると。ハタンHattem の結婚で辱めを受けているなど)と。それに、アマルがアミンに「兄ハタンの目を見られない」というように、ガタガタ文句はいうが対峙できない。そして、アマルは両親の元に戻ったらとアミンにいう。
ロシアで弁護士をしている兄Hattem (Eyad Sheety)も自分軸のある存在のように見えるが、伝統をやぶって勘当同然になった父親に、自分の存在を認めてもらいたがっている。アマルの夫アミンも家族の中で完全に受け入れられていないから、不平が溜まってしまってるね。しかし、アマルは自分軸があって、父親や夫にも助言できるし、何をすることが大事かわかっている。そして、家族の精神的な支えになっている。それは「人の目を気にする」アミンとは相容れないだろうと思わせる。アマルは『人を助け、自分の存在も忘れない』という人でこういう存在はどこの社会でもいるが、狭い共同体の中の社会では貴重な存在であると思う。一つ気になったことがあるが、誰が、アマルの精神的なサポートをしてあげられるだろうか。それに、アマルの長女だって、アマルがハイファ大学のソーシャル・ワーカーのプログラムに合格した通知を読んでいるとき、そばにいたのに『父親は母親を大学に行かせないかも』というだけ。母親を心配している気持ちは十分出ているが...長女はイスラエル派の彼と付き合っているから父親が反対していると。アルマは自分の合格の喜びを、長女に「神がついてるよ。自分は失敗したけど、自分の幸運よりあなたの幸運の方がいいよ。あなたには将来があるよ。自分のように生きるなよ。なんでもできるよ』という言葉で言い表していて、娘を勇気づけている。アルマだって、どこかでもっとねぎらいの言葉が必要だよね。

アミルが日射病で倒れた時、彼は「アルマの将来の希望より、世間に男じゃないって言われ、妻をコントロールできないって言われる方が嫌だ」と。これでふたりは終わったね。でも、アマルには希望があるね。



イスラム教の一派であるドゥルーズ派の人々はイスラエルのユダヤ人と同様兵役があると思ったが、このように宙ぶらりんの状態にある(言葉は悪いが、どの国につくか政治状態による)。映画を見ている時点ではイスラエル側に属するがドゥルーズ派の少数民族の人々は兵役があるのかと思った。あとで調べてわかったことだが、モナの家族のような人たちはシリアに忠誠を誓っていて、特に、若い人たちは武器を持って戦わないことを誇りにしていると。ガレリアで生まれたドゥルーズ派の人々はイスラエルに忠誠を誓っていて、兵役があると。(i24 news english)