すずき

オテサーネク 妄想の子供のすずきのレビュー・感想・評価

オテサーネク 妄想の子供(2000年製作の映画)
3.8
ホラーク夫妻は不妊に悩み、精神のバランスを崩しつつあった。
ある日、夫は伐採した木の根っこが赤ん坊のような形をしていた為、それを人形にして妻にプレゼントするのだが、妻はそれを息子だと思い込んでしまう。
別荘から家に連れて帰ろうとする妻に、いきなり赤ちゃんが出来たら変に思われる、と宥める夫。
だが妻は、10ヶ月間妊娠したフリをして、それから産んだ事にすれば怪しまれない、と提案。
かくして夫は妻の病的な思い込みに付き合う羽目となるのだが、同じアパートの早熟な少女アルジュビェトカはそれを怪しんでいた…

「アリス」「ファウスト」のヤン・シュヴァンクマイエル監督の作品。原作は同名のチェコの民話。
今までシュヴァンクマイエル作品は前述の2つしか見てなかったので、この映画もヘンな映画かと思っていた。
だが実際見てみると、ヘンではあるのだが、意外にマトモにストーリーが展開する、見やすいホラー作品だった。
例えるなら、クローネンバーグ監督の「ビデオドローム」「裸のランチ」と見たあとに「デッドゾーン」を見た感じ。
わかりやすい作りなんだけれど才能や個性は消えてない、みたいな。

ストップモーションアニメのレベルは前2作より、格段に進歩していた。
シュヴァンクマイエル監督のトレードマーク、動く生肉も登場!
あと飯が不味そうで不快!これも監督の作品に共通した特徴。

映画前半は、病んだ妻の妄想が進行していく、哀しくも恐ろしい心理的ホラー。
木の根っこを息子だと信じる妻に業を煮やした夫が「これはただの木だ!」とガンガン叩きつけるシーンとか、妻と夫、どちら側でもストレスフルで辛い。

そして映画後半は、妄想だったはずの「息子」のオテークが、演技とはいえ「妊娠して産む」というプロセスを踏む事で、実際に命が宿る。
だがオテークは、何でも食べてしまい際限なく成長を続ける怪物だった、という展開に。
モンスターである事も勿論怖いけれど、それでも息子として愛し、世間から隠して育てようとする妻の狂気が1番怖い。
ここらへんから、夫妻からお隣さんの娘アルジュビェトカに主人公の座が移る。
そして母性もいう狂気も…。