このレビューはネタバレを含みます
髪結いの亭主だなんて、なんて粋な邦題かと思ったら、原題のLe mari de la coiffeuseも同じ意味であった。
まず、女の床屋さんと結婚するのが夢、という主人公の純粋さである。ここに、感情移入など必要ない。ただ、映画的ともいえる風変わりな風情を楽しむのみだ。これは、たびたび主人公が見せる出鱈目なアラブのダンスにもいえる。そこに、理由などないのだ。
そして、成長した少年は事もあろうにジャン・ロシュフォールなどという醜男になってしまう。希望はないはずだ。
にもかかわらず、アンナ・ガリエナという年増でありながらコケティッシュで風変わりな美人と結ばれてしまうのだ!
この醜男と美人の組み合わせこそ、ルコント印の最たるものだ。その先にあるのは、毎回、狂気的とも言えるひねくれた愛と、その果にある美だ。なんという人生!
それを形作るのは、エドゥアルド・セラによる明るくもどこか憂いを帯びた画と、楽しげな前半に対し切なく一筋縄ではいかない後半の対比が素晴らしいマイケル・ナイマンの音楽である。感覚に来るタイプの映画に仕上がっている。