MOCO

俺は、君のためにこそ死ににいくのMOCOのレビュー・感想・評価

3.5
「何かね、ずっと見てたらおばちゃんがおふくろに見えた・・・。
 明朝、出撃します。いろいろとありがとうございました。

 おばちゃん、ここって蛍はいるの?」(河合惣一軍曹)
「なんで?」(トメ)
「俺の故郷は蛍が名物でさ、季節が来て蛍が孵(かえ)ると川一面渦になって沢山飛ぶんだよ」
「それは綺麗かねぇ」
「綺麗だよ、見る度に夢みたいだった。だから、俺蛍になってまたここに戻って来るよ・・・。

 ねえおばちゃん『死ぬ』ってどうゆうことかな・・・」


 作家石原慎太郎氏による脚本・製作総指揮で太平洋戦争末期の特攻隊員と、彼等の食事を賄いながら、彼等を見送り続けた女性鳥濱トメさんを描いた戦争映画です。

 石原慎太郎氏が、生前のトメさんから伝え聞いた若い特攻隊員の話を元に制作されています。
 石原慎太郎氏は政治家でもあるため、端から「この映画は観ない」と決め込んでいる方も多いかもしれませんがそれは偏見、戦時下のファンタジー化された恋愛映画や、英雄化された誰かの映画とは違う戦争映画として観るべき映画です。

 2000年に行われた『オロナミンC「1億人の心をつかむ男」新人発掘オーディション〜21世紀の石原裕次郎を探せ!〜』でグランプリを受賞した徳重聡氏が石原裕次郎繋がりでW主演されています。
 
 知覧の人びとの訛りで台詞が聞き取り辛いこと、主演の岸恵子さんが美しいけれど(この映画に限らず)演技下手なことが残念です。
 特攻は長引く戦争で人手が足りなくなり十代の若者が集められていたのですが隊員役の徳重聡氏 、窪塚洋介氏 、筒井道隆氏 、 前川泰之氏がそこそこの青年であり大人びていることに違和感があり、唯一初々しい中村友也(中村倫也)氏が私の思っている年代に近い少年を演じています。さらに言うなら特攻隊員がちゃんと五分刈りでいることは史実に則して評価できます。


 日本が太平洋戦争で敗戦に向かいはじめた昭和19年秋、大西瀧治郎海軍中将(伊武雅刀)の提唱で、日本軍は米軍の本土上陸を阻止すべく戦闘機に爆弾を搭載して敵空母に体当たりする特別攻撃隊を編成します(当初の特攻は撃沈ではなく甲板を使えなくすることを目的にしていました)。
 最初の特攻を確実に成功させて後の特攻に勢いをつけるために関行男海軍大尉(的場浩司)等腕の立つパイロットが選ばれアメリカ軍の空母に特攻を成功させます。
 
 昭和20年春、米軍の沖縄上陸がはじまり、鹿児島の知覧飛行場は沖縄を死守するための陸軍特攻基地となります。

 知覧飛行場の軍指定の富屋食堂の鳥濱トメ(岸恵子)は特攻のために集められた若き飛行兵たちから母のように慕われ、死に逝く若者を見送る日々を過ごすことになります。
 トメが出来ることは彼等にささやかな食事(玉子丼)を振る舞うことと、検閲を免れるために託された手紙を投函するくらいのこと・・・。

 特攻を志願したことを両親に伝えることができなかった板東勝次陸軍少尉(窪塚洋介)は出撃前にトメに父親宛の手紙の代筆を頼み、在日朝鮮人で特攻志願した金山少尉(前川泰之)は、差別なく接してくれたトメに感謝します。

 先の特攻で仲間を失い死にいそぐ板東陸軍少尉。生き残るために機体の不調で幾度も基地へ帰還する田端絋一少尉(筒井道隆)。それを批判する中西正也少尉(徳重聡)・・・。
 無理やりの出撃で田端少尉の機体はエンジン停止し出撃間もなく墜落死してしまいます・・・。
 
 やがて中西を隊長にした飛行隊の特攻出撃の日がやってきます。
 無残にも敵空母に到達する以前に多くの機体が撃ち落とされ、中西少尉、板東陸軍少尉の機体も被弾し・・・。

 中西少尉は海上で救いだされ昭和20年8月15日、終戦を迎え一緒に特攻に出た部下の亡霊に悩まされ、立ち直るのに多くの時間を必要とすることになります。
 特攻で生き残った者、散って行った者の家族、彼等を見送り続けたトメの心の中に戦争は深い傷を残していきます。

 そして終戦から15年たったある日、トメは板東陸軍少尉の遺族の思わぬ訪問を受けます。渡された手紙には悲しくも驚きの話が・・・。

 出撃前の金山少尉が感謝を込めてトメに歌う「アリラン」と、蛍になって戻って来ると話す 河合軍曹の話が涙をさそいます。

「俺は、君のためにこそ死ににいく」の「君」は特定の誰かを指すものではありませんでした。「君」は生きている日本国民全てを指すものでした。
「思えばもう遠い昔のことかも知れもはんが、いつまでも忘れることができもはん。みんな素晴らしか、美しか若者達でございました・・・」
 中西が平穏を取り戻し始めたある日、中西とトメさんの前に河合軍曹らの英霊が無数の蛍となって還ってきます・・・。

 生前の父親から聞かされていた通り、戦時中の十代は愛国心に溢れた大人でした。
MOCO

MOCO