ちろる

革命前夜のちろるのレビュー・感想・評価

革命前夜(1964年製作の映画)
3.7
ベルナルド ベルナルドリッチ監督初期の作品。
「革命前夜を生きなかったものは生きる事がいかに甘美か理解できない。」byタレーラン
なぜか分からないけれど革命前夜という言葉って確かに甘美な響きだ。
革命前夜というからてっきり一晩の話なのかと思っていたけど、ほとんどが美しき叔母との屈折した愛に溺れ思い悩む青年のラブストーリーであった。

私はブルジョアでも、革命前夜を生きたわけでもないからファブリッチオの精神世界と哲学的言葉の羅列に全て入り込めず、たまに置いてきぼりになりそうだった。
けれど、ファブリッツオの若さ故の気恥ずかしくなるような精神哲学や反発心は、さすがベルトリッチ監督が22歳の時だからこそ作れたのだろう。

魔性の魅力を放つ大きな瞳と黒い髪が印象的な叔母ジーナは甥との愛に悩みながら堕ちていく。
清純でクセのないブロンド美女のクレリアがいながら自らの思想ゆえに悩むファブリッチオ、お前は贅沢だ!と叱りたくなったけど、ゆったりとフォーカスするそれぞれの美女のショットは本当に美しかったので拝めてよかった。
因みにベルトリッチ監督ならではの作品のハッとする色彩や構図の美しさの魅力とはまた違い、モノクロ作品であるこちらは、ゴダール色の強い実験的映像でベルトリッチ風味は薄い。
巨匠も当時はまだ自分色を探っていたのだろうと思うとちょっと面白い。

「何もかも止まってしまえばいい」
自らを結局打破できずにコミュニストとして生きる事から挫折し、ブルジョワとしての人生を歩んだ彼のその先はなにも残らない。
思考停止するしかないファブリッツオと、諦めることで次の人生を歩もうと力強く決意するジーナの対比を、マクベスのオペラをバックにして、ジーナ役のアドリアーナ ティのラストのなんとも言えない表情が生々しく印象に残る作品だった。
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