“彼らは穴を掘ることを目的として穴を掘っているんだ”
(村上春樹 『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』)
本作はなぜか私に“世界の終り”というイメージを想起させた。
一人娘を亡くしたとき、彼は鉄道員として勤務していた。
妻に先立たれたときも、彼は鉄道員だった。死に目にも会えなかった。
そして彼はひとりになった。
それでも彼は、厳しい雪の降る幌舞の地でひとり、鉄道員として愚直に務めた。
彼の人生に対する姿勢は、現代人の感覚と逆行しているかもしれない。今は、働き方改革の時代。どれだけ会社を休めるか、そして休日にどれだけ趣味を楽しめるか、または副業や兼業、子育てもカッコよく。そのようにして効率的に人生を楽しむ時代だ。
しかし本作を見て、彼のように一途に鉄道員を貫く姿に、ちょっと憧れてしまうのは私だけではないだろう。
そして彼は最後に、思いがけないプレゼントをもらう。彼の人生をすべて肯定するような温かい贈り物を。
その温かさは、私の心にも芯まで染み渡った。なんて温かい映画なんだろう。
幌舞駅
本日も異常なし。
公開:1999年
監督:降旗康男(『駅 STATION』『あなたへ』)
音楽:国吉良一
撮影:木村大作
出演:高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、志村けん、小林稔侍