NORA

きょうのできごと a day on the planetのNORAのレビュー・感想・評価

4.3
日常を、日常としてそのまま放り出してしまった映画。舞台はとある春の一日、大学院生の引越し&合格祝いに集まった仲間たちと、壁の間に挟まった男、海岸に打ち上げられた鯨という2つのニュース。ささやかな伏線回収や時系列操作はあれど、基本的には何も起きないし、最初と最後でなにか変化が生じるわけでもない。
それでもこの映画は、時おり妙に見返したくなる魅力がある。その理由はやはり、どこかで「つながり」を感じたいからかもしれない。一見バラバラに見えるそれぞれの事象が、根っこでは地続きであるという不思議な安穏。なにげない会話、仕草、表情、ふとした微妙なニュアンスが奏でる信頼関係。誰もが本当の自分をすべてさらけ出せるわけでもない。相手をすべて理解できるわけでもない。それでも、それぞれが折り合いをつけ、あるいは信じ、赦す、その関係性がつくるふわふわとした優しい空間。それが、どうしようもなく居心地が良い。海に行こうぜ!のノリで車を出してしまう気の置けなさ、「うまく言われへんけど」紡ぎ出される不器用な言葉たち、そんなすべてが、なんだか眩しく、羨ましい。
なお、行定勲はのちに『パレード』(2010)を監督するが、それは本作と同じようなテーマを扱いながら、その解釈をまるっきり反転させた作品である。両者を見比べてみるのもまた面白いかもしれない。
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