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オレンジと太陽のodyssのレビュー・感想・評価

オレンジと太陽(2010年製作の映画)
4.5
【ジム・ローチ監督、good job!】

一種の歴史物だけれど、有名な事件をスペクタクル風に扱った映画ではなく、隠されていた事件を福祉職の女性公務員が発掘していくというお話。児童移民というちょっとショッキングな内容で、見ごたえは十分。

英国といえば産業革命を世界に先駆けて行い、その後は地球上の各地に植民地を持ち、日の沈まない大帝国と言われ、第二次大戦後はジリ貧の気があるとはいえ福祉国家という言い方でやはり先進国の面目を保っていると思われてきた。その英国が、1970年ごろまで児童移民などという恥知らずな真似をしていたとは! しかも、移民された児童が大事に保護育成されていたならともかく、実質的には安価な労働力として酷使され、あまつさえ性的虐待まで受けていたのである。

しかも、それにカトリックの神父たちまで加担していたというのだ。驚天動地、茫然自失、怒り心頭・・・・の事実なのである。

さらには、事実を掘り起こそうとするヒロインを襲う輩が現れる。真実を知りたくない、そして真実を探り当てることを妨害する卑劣な人間が英国やオーストラリアにはいる、ということだ。

ケン・ローチの息子であるジム・ローチ監督は、こうした材料をもとに重厚な社会派映画を作り出している。スペクタクルではないが良い意味でドラマティックだし、人間の微妙な心理にも踏み込むなど映画的効果も十分。惜しむらくは、この事件の詳細については映画だけでは分からない部分があること。しかし映画という媒体の特性を考えればやむを得ないだろう。パンフがその不足を補ってくれる。

ちなみに、『裸足の1500マイル』という映画がある。かつてオーストラリアにあっては、先住民アボリジニの女性と白人男性の間にできた子供を母親から無理に引き離し、隔離して育てていた。これにはキリスト教の教会も関わっていた。この歴史的事実を扱っている映画である。今回の『オレンジと太陽』とあわせ、キリスト教会の闇のようなものを感じざるを得ない。
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