アニマル泉

ニューヨーク1997のアニマル泉のレビュー・感想・評価

ニューヨーク1997(1981年製作の映画)
5.0
ジョン・カーペンターの代表作。「登る」「落ちる」という縦の運動と「突破する」「渡る」という横の運動がまさに縦横無尽に、美しく連続するアクション映画の傑作である。
冒頭から「高さ」だ。夜の海を逃げる脱獄囚をヘリコプターがサーチライトで照らして容赦なく射殺する。そして大統領専用機が墜落する。スネーク(カート・ラッセル)のニューヨークへの侵入も空からグライダーで貿易センタービルの屋上への着陸だ。潜入してからは一転して地底人による下からの襲撃だ。マンホールから次々と地底人が不気味に現れる、実のラッセル夫人でもあるシーズン・ヒューブリーがラッセルを誘惑すると床から地底人の手が突き出してあっさり引きずり込まれる場面は怖かった。逃げるラッセルは階上へ登り、窓ガラスを突き破って壁を降下したりと縦の運動が連続する。カーペンター作品ではガラス窓は突き破るためにある。
横の運動で素晴らしいのが、廃墟と化したブロードウェイを車でくぐり抜けて逃走する場面だ。おびただしい暴徒たちが襲いかかるなかをラッセルの車が突破する。しかしスクラップ車のバリケードで行き止まり、Uターンして戻ると見せてバックでバリケードを突破するのが素晴らしい。前進あるのみ、一直線で突破する横の運動が破壊的だ。
ニューヨークからの脱出は再び縦の運動、貿易センタービルの屋上へ昇るが、グライダーは無残にも落下する。
そして縦と横の運動が見事に融和するのがクライマックスである。ブレイン(ハリー・ディーン・スタントン)が調べた地図に基づいて橋を渡って脱出を図る。この橋は地雷が埋め尽くされた橋なので、次々と同行者が死んでいくというサバイバルな設定が秀抜だ。まずはサバイバルな橋をギャビー(アーネスト・ボーグナイン)のタクシーで突破する横運動だ。そこへデューク(アイザック・ヘイズ)の車が追いかける。「行き止まり」が本作の主題となっている。迫るデュークの車に行き止まりとなって身体を張るのがマギー(エイドリアン・バーボー)、最後に見事なヒロインになる。バーボーは実のカーペンター夫人で、いつも無駄に露出が多いのだが、この場面の存在感は素晴らしい。そして橋のドン突きはニューヨーク刑務所の巨大な壁だ。ここから縦の運動になる。ラッセルが最後の力を振り絞ってロープで壁を這い上がるのだが突然ロープが止まって宙吊りになる!ここが痺れる。全編を通して縦と横の運動を見事に配してきて、クライマックスでピタリと動きが止まる、縦の動きが静止して壁のど真ん中で宙吊りになる、デュークの絶好のターゲットになる、この見事な展開には唸ってしまう。カーペンターの嬉しい映画的感性だ。
本作は24時間の時限付きで大統領を救出するサバイバルドラマである。シンプルで判りやすい。大半が夜だ。火が重要だ。至る所が廃墟である。カーペンターは乗り物が好きだ。ヘリコプター、飛行機、グライダー、車、列車。スネークは腹に蛇の刺青があるマッチョなヒーローである。カーペンターは「ゼイリブ」でプロレスラーのロディ・パイパーを起用したようにマッチョが好きみたいだ。コロシアムのようなリングの格闘技場面が印象的である。ラッセルがホーク所長(リー・ヴァン・クリーフ)に最初と最後に言うセリフ、「Call mei Snake」と「Call me Plissken」が面白い。
本作は名優揃いなのが嬉しい。リー・ヴァン・クリーフ、アーネスト・ボーグナイン、ハリー・ディーン・スタントン、ドナルド・プレザンス!盤石の構えである。
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