映画漬廃人伊波興一

ドイツ零年の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

ドイツ零年(1948年製作の映画)
5.0
資金も愛情も展望も何もかもが不足する廃墟の町にひっそりと、確実に訪れる朝の悲劇 ロベルト・ロッセリーニ「ドイツ零年」

キャバレー女給の姉。
いつまでも立ち直れない元ナチ党員の息子へいらだつ老父。
そんな家族への複雑な想念を自傷や暴力として体現するわけでもなく、冷たい言葉や態度で外気に触れる事もなく、ひたすら彼の胸のうちでかけ巡る。

それは少年エドモンドの柔軟すぎる肉体と捉えどころない精神を支えているのは他ならぬこの家族だけだから。

どう生きようが、どう頑張ろうが、廃墟となったベルリンの町は昨日と寸分変わらず、明日も確実に厳しい一日を迎える敗戦国の市井の人々をひたすら翻弄するよう。

そんな寒明けが待たれるベルリンの町にすきっ腹を抱えて蹌踉と夜通し歩く少年エドモンドは、知性で動いたわけでもなく、家族をあらゆる塵労から遠ざけようと、ただ、師と思っていた者の助言に従っただけなのに。

何万にに及ぶか分からぬ世界大戦の犠牲者のひとり。同じ敗戦国イタリアから生まれた少年の決断に今は触れないで起きます。