昼行灯

こおろぎの昼行灯のレビュー・感想・評価

こおろぎ(2006年製作の映画)
3.8
障害者と健常者という対立が町の中心部と外れという位置関係によって表されていた。鈴木京香がバーに安藤政信を連れ立ったとき、彼女の姿が見えなくなると彼はうろたえうずくまったあと、嫌がり1人バーを後にする。彼のうろたえる様子は他の客に見向きもされず、その後鈴木京香が慰めてもバーを出ていくことを考えると、やはり対立する二者が相入れることは難しいことが感じさせられる。

それでも、健常者である鈴木京香がいなければ、安藤政信は生きてはゆけない。主人公たちの住む別荘には太陽の光がたっぷりと注ぎ込み、それは目の見えない安藤政信にとって、自分を導き、支える鈴木京香の象徴となる。実際、安藤政信は鈴木京香に触れることによってしか、彼女の存在を自分から確かめようとすることは出来ない。陽の光に向かって大きく手を伸ばし、受け止めようとする彼の動作はまさしく鈴木京香に対する彼の姿勢と同じである。それは、海に身を浸からせ月光に対する時も同様だ。彼は全身で彼女の恩恵を被っているのである。バーを出ていったあとも、彼女に見つかるまでよく陽の当たる場所でぽつんと佇んでいたことも印象深い。

しかし、鈴木京香もまた安藤政信がいなければ自分ではないのである。彼女は安藤政信が1人で行動するのを制限するかのように、靴を隠したり、無理やり食べ物を口に突っ込んだりする。彼女は、彼を積極的に未熟な人間にすることで、自分の役割をつくろうとしているのだ。そうすることで、彼女は自分の存在価値を創出しようとしている。
また、彼女は彼のめちゃくちゃな食べ方を真似したり、彼がいなくなったあと、彼の動作を他人で反復したりする。はじめは上品だったのが次第にめちゃくちゃな食べ方になる様子は、二人の口をクローズアップにして交互に映すことで強調されている。まるで彼に同一化するかのようである。だが、同一化するためにはその対象が必要だ。だからこそ、彼女は彼を必要とするのである。
昼行灯

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