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日本の黒い夏 冤罪のakrutmのレビュー・感想・評価

日本の黒い夏 冤罪(2000年製作の映画)
3.1
松本サリン事件の犯人として誤認逮捕された河野義行さんに対する冤罪未遂および報道被害を描いた、熊井啓監督の半ドキュメンタリー映画。この事件の1年後に、長野県の高等学校の放送部が『テレビは何を伝えたか』というドキュメンタリービデオを制作したという実話を元にした戯曲『NEWS NEWS』が原作である。実は長野県出身の熊井啓監督は、子供のころ河野家の近所に住んでいて、河野家の人たちを良く知っていて、この報道がなされても冤罪であると確信したそうである。

リアルタイムで本事件のことは知っているので、個人的には特に目新しいことはないし、映画として特に見どころがあるわけではない。現在のようにインターネットがまだ普及していない当時は、情報源としてテレビや新聞などのマスコミ報道しかなかったこともあり、報道合戦が加熱してこのような報道被害が多く発生したという事情もあろう。しかし、ある意味では、現在の状況のほうがもっと深刻である。SNSが普及したことによって、ジャーナリズムなど何も知らない匿名の素人たちが勝手な噂を撒き散らし、情報リテラシーの欠如した人たちがそれを事実と受け取って何も考えずに拡散させるという無法状態になっている。そんなことを考えながら本映画を見ていて、時代の流れを感じてしまったのである。今の若い世代には、おそらく本映画の内容はピンと来ないであろう。

残念ながら、出演者たちの演技もイマイチであった。被害者を演じた寺尾聰の演技は良かったが、肝心のテレビ局スタッフは、うーんという感じ。中井貴一はいつ見ても中井貴一のままだし、細川直美は相変わらず棒読み状態。チンピラみたいな北村有起哉の演技はどうしても好きになれず。本作で共演している親父の渋い演技と声は好きなんだけど。熊井啓監督の良さもほとんど出ていないのではないだろうか。
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