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喜劇 あゝ軍歌のkossのレビュー・感想・評価

喜劇 あゝ軍歌(1970年製作の映画)
3.8
前田陽一の喜劇をどう分類すべきだろう。師匠である渋谷実の重さとも、同時期の森崎東の反体制とも違う。一見は松竹喜劇の系譜のようだがそれとも異なる。底流にあるのは批評精神と非倫理、非道徳、或いは哲学的といってもよい視点。国家や社会や常識を疑い笑いに変える。だから空回りしてしまうことも多い。

本作でも前田の批評精神と非倫理・非道徳の哲学的視点が炸裂する。水前寺清子の歌う軍歌を先導に展開するのは、軍隊逃れのニセ精神病の過去、戦後の旅行社の御魂神社(靖国)観光と軍服、息子が靖国に祀られない老婆と総理大臣宛の手紙、死に場所としての養老院、密航詐欺、傷痍軍人、靖国の母募金。ついには8月15日、本物の玉音放送が流れ、御魂神社の賽銭泥棒に及ぶ。出所後はどこにも行き場のない者たちの擬似家族の誕生。

アイロニーとかブラックユーモアとかそんな常套句に収まらないアナーキーなパワフルさ。前田陽一はもっと分析されるべき喜劇作家だと思う。
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